キッチンカーの縁の下
オーナー取材

「採食健美」。ペットショップ9店舗を経営した男が、カレーで健康を届けるまで|SPYSea Curry&Sweets(静岡県)

「採食健美」。

聞き慣れない四文字だが、SPYSea Curry&Sweets の齋藤亮介さん(40代)が掲げる言葉である。健康維持のための栄養を、美味しい食事で。それがこの店の全部だ。

静岡県中部から東部を拠点に、毎週土曜、富士市今泉の望月自動車工業富士営業所の敷地をお借りして営業している。看板はあいがけカレー1,200円、豚カレー1,000円、鶏キーマカレー1,000円。

ただ、この店の出発点は飲食業ではない。ペットショップだった。

黒と黄色の車体に SPYSEA CURRY & SWEETS と書かれたキッチンカーと、スパイシーカレーののぼり

犬の食事が、教えてくれたこと

齋藤さんは以前、父親から継いだペットショップ事業を9店舗経営していた。

その中で学んだことは人も犬も食事から得た栄養で体を作り健康を維持していることです。

そこで、ある違和感に行き当たる。飼われている犬の多くは、飼い主が選んだドッグフードを毎日食べ続ける。暑くても寒くても、夏でも秋でも同じものを、同じ量だけ。

まじめな飼い主ほど体重に対して何gと決まった時間に同じ量与えるのが正しいと信じています。でもそれは大きな間違いです。

理由は、犬の体のほうが季節で変わるからだ。柴犬のような日本犬は、夏に向けて毛が抜け、冬には厚い被毛と脂肪を蓄えて寒さをしのぐ。その変化に必要な栄養を、一年中同じフードでどう賄うのか。

冷暖房の整った環境で服を選ぶ人ですら季節ごとに食材や調理法を変え健康に気を使っています。

人間は当たり前にやっていることを、犬にはやっていない。この気づきが、食事と健康の結びつきを強く意識させた。

ペットも今や大切な家族です。子供はそれ以上に愛情を掛けるでしょう。そして保護する立場にある人ほど健康を維持しなければその責任は果たせません。

だから、この店は季節や気候に合わせてスパイスや調味料を調整する。気温や湿度が変われば、体が必要とするものも変わる。カレーの側を合わせにいく、という考え方だ。

間借りから、キッチンカーへ

キッチンカーとしての開業は2026年7月。ただし、カレー屋としてはそれ以前から続いている。

2025年4月、沼津市の「そばの実 千の松」を間借りして営業を開始。日曜だけ、夕方からの数時間という限られた営業でありながら、多くの客が訪れる店になった。その後いったん営業を終え、キッチンカーという形で再び走り出したのが2026年7月である。

固定店舗の間借りを1年以上経験してからのキッチンカー移行。だから、この人の「開業して一番大変だったこと」は、料理でも集客でもなかった。

一番の壁は、水道設備だった

水道設備が一番頭を悩ませました。

理由は明快だ。カレーの提供には、ご飯を炊いてカレーを温めて盛り付ける、という2工程がいる。

そうなればタンク容量も給排水でそれぞれ最低80Lは必要になります。自分は仕込み調理もしたかったので200Lずつのタンクを設置しなければなりません。また給水となれば水を吸い上げるポンプも必須です。

さらに、購入したのが中古のキッチンカーだった。

中古で購入したキッチンカーなのでそういった設備のDIYをやり直す必要がありました。

給水・排水それぞれ200Lのタンクと、給水ポンプ。中古車両の設備をやり直しての開業で、総額は100万円以内に収まっている。

中古車両を検討している人にとって、ここは読み飛ばせない部分だ。車両価格の安さは、設備要件を満たしているかどうかとセットでしか意味を持たない。カレーのように加熱と炊飯の2工程を要する業態なら、なおさらである。

スパイスは、効かせるのではなく合わせる

屋号の「SPYSea」は、スパイス(SPICE)と海(Sea)をかけた造語だ。羅臼の昆布出汁、秋田のしょっつる、広島県産のオイスターソース、ゲランドの海塩。海産物を隠し味に使っていることから、「海のスパイ」という意味が込められている。

メニューは、豚カレーと鶏キーマカレーの2種、そして両方を味わえるあいがけ。

豚カレーはトマトベースで、野菜の旨味が濃い。鶏キーマはアーモンドミルクを使う。米は鳥取の「プリンセスかおり」。

皿に添えられるのは、副菜3種。紫キャベツのマリネ、キャロットラペ、切り干し大根のアチャール。使う酢はそれぞれ違い、紫キャベツは赤ワインビネガー、キャロットラペは米酢、切り干し大根はリンゴ酢を合わせている。

トッピングのハラペーニョのピクルスは、地元農家から仕入れたものを自家製に仕込んだものだ。

鮮烈な辛さながら爽やかな酸味がありトマトベースの豚カレーにもアーモンドミルクの鶏キーマにも最適なアクセント。

スパイスたまご、紫キャベツのマリネ、キャロットラペ、切り干し大根のアチャールが添えられたあいがけカレー

カレーは仕込みに3日かかる。なお屋号に「&Sweets」とあるが、キッチンカーへの移行にあたってスイーツの提供は取りやめ、現在はカレーに絞っている。

「自分のこだわりはありません」

キッチンカーで一番こだわっているポイントを聞いた。返ってきた答えが、この人らしい。

自分のこだわりはありません。お客様ファーストなので様々なイベントなどの出店で反応を見ながらキッチンカーを自分の物ではなく望まれる形に作っていけるよう常に顧客目線で客観視していきたいと思います。

キッチンカーを「自分の物」だと思わない。出店先での反応を見ながら、望まれる形に作り替えていく。

こだわりを語らないことが、この人のこだわりなのだと思う。

遠方から来た、一人のために

やっていてよかったと感じる瞬間を聞くと、こう返ってきた。

まだ初めてばかりですが遠方からカレーを食べるためだけにご来店いただける方が満足していただけた時です。今後もそういった体験ができることが一番の喜びです。

販売窓に並ぶテイクアウト容器入りのカレーと、別添えのスパイスたまご

数ではなく、一人。カレーを食べるためだけに遠くから来た人が、満足して帰る。その一回を積み重ねていくのだという。

小学生以下無料を、もう一度

これからの目標は、店舗を持つことだ。ただし、その形に条件がついている。

あくまで副業として利益を追求しなくても維持できる形で店舗を持ちたいと思っています。以前の店舗運営で行っていた小学生以下無料・中学生カレー半額を復活させたいです。

利益を追求しなくても維持できる形。そうでなければ、小学生以下無料は成立しないからだ。

キッチンカーでは同じことが難しい。それでも齋藤さんは、寺で開かれる子どもたちのお泊まり会にカレー作りで協力するなど、食育という形で関わりを続けている。

これから始める人へ

最後のメッセージは、これまでの回答とは少し温度が違う。かなり実務的だ。

美味しいだけの料理では続けていくことは難しいので自分だからこそできることを追求して差別化することは大切だと思います。キッチンカーだけではありませんが続けていくには気持ちだけではなく利益の確保も大切です。

そして、具体的な話になる。

こだわりは大切ですが自分以外でも再現可能なメニューだったりオペレーションの簡素化や集客や利益化の仕組みなどの工夫が必要だと思います。

さらに、提供時間の話が続く。

提供までの時間も数分に収めないとイベントの時間内での売り上げ上限も見えてしまうので出店料が高額なイベントに参加できなくなります。

これは、9店舗を回してきた経営者の視点だ。提供時間が長いと、営業時間内にさばける杯数の上限が決まる。上限が決まれば、出せる出店料の上限も決まる。結果として、出られるイベントが狭まる。

厨房の話が、そのまま出店戦略の話になっている。

やりたいだけでなく目標や目的をしっかり持って逆算することも忘れずに。

店舗情報

項目内容
屋号SPYSea Curry&Sweets
代表齋藤 亮介
業態スパイスカレー
キッチンカー開業2026年7月(2025年4月より沼津市で間借り営業)
活動エリア静岡県内(主に中部〜東部)
営業毎週土曜/富士市今泉・望月自動車工業富士営業所敷地内
主なメニューあいがけカレー1,200円/豚カレー1,000円/鶏キーマカレー1,000円
Instagram@spysea.curry.sweets

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取材・執筆:キッチンカーの縁の下 / 滝澤 仁

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滝澤 仁

この記事を書いた人

滝澤 仁
株式会社セレーノ代表取締役 / キッチンカーの縁の下 運営者・業界19年

長野県在住。2005年にキッチンカーで起業し、フランチャイズ本部・中古車両売買・業界メディアを手がける。出店する側・集める側・支える側、すべての立場を現場で経験してきた。

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