キッチンカーの縁の下
オーナー取材

「焼きたてを届けたい。」――埼玉から関東一円を走る鮮やかピンクのチュロス専門店〈HOSHINO CHURROS〉豊悠祐さんが、5分という時間に込めるもの

イベント会場の片隅で、ひときわ目を引くピンク色のキッチンカーがある。

鮮やかピンクの車体に「Since 1988 星のチュロス」の幕がかかる〈HOSHINO CHURROS〉のキッチンカー外観。木に登る男の子・熊・フクロウ・木の精霊が描かれた絵本のような世界観

側面には「Since 1988」のリボンと、その時代に描かれたかのような趣を感じさせる「星のチュロス」の文字。木に登った男の子、寄り添う熊、フクロウ、そして木の精霊らしき翁――まるで絵本の1ページがそのまま走り出してきたような、不思議で、温かい世界観をまとった一台だ。

このキッチンカーの主、豊悠祐(とよ ゆうすけ)さん(30代)は、埼玉県を中心に、東京・神奈川・千葉まで関東一円を走り回りながら、焼きたてのチュロスを届けている。

屋号は〈HOSHINO CHURROS(ホシノチュロス/星のチュロス)〉。キッチンカー開業は2024年5月。今年でちょうど2年を迎える。


「焼きたてにこだわった、チュロス専門店」

豊さんが掲げるキャッチコピーは、シンプルそのものだ。

「焼きたてにこだわったチュロス専門店」

このたった一言に、〈HOSHINO CHURROS〉のすべてが詰まっている。

実は、星のチュロスは1988年から続く歴史を持つ商品だ。長年、冷凍チュロスとしてECサイトで販売され、SNSを中心に多くのファンを獲得してきた、知る人ぞ知る存在。

豊さんは、その美味しさをよく知る一人だった。

「冷凍販売のみならず、身近な場所でこのチュロスの美味しさ、魅力をお届けしたいという思いから、店舗ではなく、どこでも移動ができて多くの方に焼きたてチュロスをご提供できるように、キッチンカーによる焼きたてチュロスの販売を行なっていこうと、製造元の企業様とタッグを組ませていただき開業する運びとなりました」

冷凍便で届く美味しさを、もう一段引き上げる。それが「焼きたて」という選択だった。

そして、その想いを街に運ぶ手段として選ばれたのが、キッチンカーという形だった。


注文を受けてから、5分。

〈HOSHINO CHURROS〉の最大のこだわりは、明快だ。

「作り置きは一切せず、お客様一人一人に焼きたてチュロスをご提供すること」

オーブントースターで、注文を受けてから一本一本焼き上げる。提供までは約5分。

「外はサクッと、中はしっと〜り」――豊さんがSNSで繰り返し使う、この食感の表現が、できあがる一本に集約される。

焼き上がりに、グラニュー糖やシナモンシュガーを丁寧にまぶす。専用の薄ピンクのチュロス袋にすっと差し込んで、完成。

5分という時間は、ファストフードに慣れた感覚からすると、決して「速い」とは言えないかもしれない。けれど豊さんは、その時間こそが価値だと考えている。

「注文が入ってから焼き上げるため、5分ほどお時間頂戴しておりますが、その分美味しく仕上げてます」

待つ時間ぶん、香りが立ち、温度が上がり、食感が完成する。

販売窓の前で待つ5分。あの香りに包まれる5分。それは、〈HOSHINO CHURROS〉の体験の一部なのだ。


看板は、チュロス3種セット900円

〈HOSHINO CHURROS〉のメニューはシンプルに整理されている。

ベージュ背景に並ぶ〈HOSHINO CHURROS〉のチュロス3種(プレーン・シナモン・チョコレート)と、HOSHINO CHURROSロゴ入りのホットコーヒー・アイスドリンク。薄ピンクのチュロス袋にすっと差し込まれた一本
メニュー 価格 備考
チュロス3種セット 900円 売上No.1
チュロス2種セット 700円 売上No.2
プレーン 400円 単品
シナモン 400円 単品
チョコレート 400円 単品
ミルクバター 400円 単品
チュロスドリンクセット 600円 お好きなチュロス+ドリンク
アイスチュロス 600円 期間限定
各種ドリンク 300円 コーヒー、カフェオレ、ロイヤルミルクティー、リンゴ、オレンジ

看板はやはりチュロス3種セット 900円。プレーン、シナモン、チョコレート、ミルクバター――4種類のフレーバーから3本を選べる、贅沢な構成だ。

豊さんはSNSで、それぞれのフレーバーの魅力をこう紹介している。

プレーンについては――

「アレンジがしやすいフレーバー。シュガー・グラニュー糖のみで食べるのもよしですが、ディップソースにディップして食べるとより美味しいフレーバーとなります」

シナモンについては――

「チュロスと言えば…シナモンフレーバー。クセがなく、ほんのり香ばしくてスイーツな味わい。焼き上がり後にたっぷりのシナモンシュガーやグラニュー糖をまぶすとテーマパーク気分。アイスクリームとの相性がピッタリのフレーバー」

チョコレートについては――

「当店のチョコレート味はとてもビター。カカオを練り込んだフレーバー。甘さ控えめのビターテイストで、大人の方でもお楽しみいただけるほろ苦テイストとなります。アイスクリームやベリー系のジャムなどにも相性がピッタリのフレーバー」

「テーマパーク気分」――この表現が、〈HOSHINO CHURROS〉の立ち位置を端的に示している。

普段の街角で、ふいに、テーマパークのあの特別な瞬間を味わえる。それが、このキッチンカーが運んでくれるものだ。


「右も左もわからない」状態からの、1年間

順調に常連客を増やしてきたように見える〈HOSHINO CHURROS〉も、その立ち上げは決して簡単ではなかった。

開業して一番大変だったことを訊ねると、豊さんはこう答えた。

「出店場所の選定です。始めたての頃はイベントの出店方法であったり、どの場所が販売している商材とマッチしているかだったり、場所選びがかなり大変でした」

これは、キッチンカー業界20年の人間として言わせてもらえば、ほぼすべての新規開業者がぶつかる壁だ。

商材によって、刺さる場所はまったく違う。

ランチ需要が強いオフィス街では、デザートのチュロスは苦戦することがある。逆に、ファミリー層が集まる公園イベントや、若い女性が多いマルシェでは、輝く。SNS映えする鮮やかなピンクの車体と、見た目にも可愛らしい商品は、確実にその層を引き寄せる。

その「マッチ」を見つけるまでに、何度も外す。何度も外しながら、データを蓄積していく。

豊さんは1周年を迎えた際のSNS投稿で、当時の心境をこう振り返っている。

「OPEN当初は右も左もわからないところからのSTARTでした…

出店場所はどこが良いか?イベントはどうやって申し込むのか?営業許可証ってどうやって取るの?

あれがない!これがない!etc…

そんな状態からSTARTし始めたキッチンカーです」

ECサイト販売とキッチンカー販売は、同じ「商品を売る」という行為でも、必要なノウハウがまったく違う。営業許可、出店申請、現場でのオペレーション、現金管理、天気との戦い――Webでは存在しなかった現実が、次々と立ちはだかる。

それでも豊さんは、SNS投稿の中でこうも書いている。

「ただ、この一年で多くの人との出会いや繋がり、学びなどがあったこと。また多くの経験を積んできたことで無事に1年を迎えることができました」

「右も左もわからない」と言える誠実さと、その状態から這い上がった事実。両方を、過剰に飾らず書ける人だ。


「美味しかった!」の一言が、すべてを吹き飛ばす

「やっててよかった」と感じる瞬間を訊ねた。返ってきた答えは、商売の本質そのものだった。

「お客様からの『美味しかったです!』というお言葉をいただく時が一番やってて良かったなって思えます。

美味しいチュロスをちゃんと提供できた!って一番思える時です。

もちろん、どのチュロスも美味しいものを提供することを心がけてますが、やはり言葉で『美味しかった!』と言ってもらえると、もっと頑張るぞって気持ちになれます」

この答えに、豊さんの仕事観が滲んでいる。

「美味しいものを提供すること」は当たり前にやっている。それでも、お客様の口から「美味しかった」という言葉が出てきた瞬間に、初めて「ちゃんと届いた」と確信できる。

商品としての完成度は、製造元との連携で担保されている。豊さんが現場でできるのは、焼き加減、提供のスピード、笑顔、対応――その一つひとつを丁寧に積み重ねること。

その積み重ねが、お客様の「美味しかった」という一言に結実する。

豊さんはSNSの1周年投稿で、こう続けている。

「お客様に関しましては、ライバルとなるチュロスのキッチンカーも多々ある中、その中でも HOSHINO CHURROSをお選びいただき、感謝してもしきれないのが正直な気持ちです」

チュロス専門のキッチンカーは、近年増えている。テーマパーク的な体験を運ぶこのカテゴリは、競合が密集しやすい領域でもある。

その中で「選んでもらえた」ことへの感謝を、豊さんは率直な言葉で表現する。


鮮やかピンクの車体に込められたもの

〈HOSHINO CHURROS〉のキッチンカーは、一度見たら忘れられない。

ベージュ背景に白い波形のフレームで囲まれた「HOSHINO CHURROS SINCE 1988」のブランドロゴ

桜色とも言える優しいピンクの車体。サイドに大きく掲げられた「星のチュロス」の白い幕。墨で描かれた絵本の世界。落ち着いた金色のロゴマーク「HOSHINO CHURROS SINCE 1988」。

ありがちなキッチンカーとは、明らかに一線を画す世界観だ。

サクッと焼き上がったチュロスを差し込む薄ピンクの紙袋にも、同じロゴ。クラフト紙のホットドリンクカップにも、透明アイスドリンクのカップにも、同じロゴ。

商品、車両、包材――すべてが一つのブランドとして統一されている。

「ピンクのキッチンカー、可愛い!」

その第一印象から、商品への期待、購入、提供、そして「美味しかった!」という言葉まで――すべての体験が、丁寧にデザインされている。

これは、長年ECサイトでブランドを育ててきた製造元の知見と、現場で焼き続ける豊さんの仕事が、合わさって生まれている景色だ。


これからの夢――2台目の開業

これからの目標を訊ねた。

「2台目以降の開業を進めていきたいです」

短く、明快な答え。

1台目で2年間、出店場所のマッチングを学び、現場のオペレーションを磨き、ファンを増やしてきた。その蓄積を活かして、次の一台、その次の一台へ。

スケール拡大の方向性を、躊躇なく語れるところに、豊さんの自信と、〈HOSHINO CHURROS〉というブランドの力を感じる。

2年目を迎えた今、〈HOSHINO CHURROS〉は次のステージに踏み出そうとしている。


これから始めたい人へ――豊さんからの本音

最後に、これからキッチンカーを始めたい人への一言メッセージをお願いした。

「開業資金や開業後の出店場所の選定、メニュー作りなど、大変な事は山ほどあります。

辛抱強さも大事と、同業の方々は口を揃えて仰います。

それでもお客様の『美味しい!』や『また来ます!』などの声を聞くたびに、苦痛や大変なことを吹き飛ばしてくれるのがキッチンカーだと思っています。

一緒に楽しくキッチンカーライフを送りませんか?」

「辛抱強さ」という、業界の先輩たちが口を揃える現実を、豊さんはまっすぐに伝える。きれいごとを言わない。それでも、最後は「一緒に楽しくキッチンカーライフを送りませんか?」という、開かれた招待の言葉で締めくくる。

このメッセージで特に印象的なのは、最後の一行だ。

「一緒に」――この言葉が出てくる人は、おそらく現場で他のキッチンカー仲間と良い関係を築いている。競争相手ではなく、業界をともに盛り上げる仲間として、新しい人を迎え入れたい。

そういう人が、業界を健全に育てていく。


取材を終えて

埼玉県のどこかで、関東のどこかのイベント会場で、〈HOSHINO CHURROS〉の鮮やかピンクのキッチンカーは、今日も誰かを待っている。

オーブントースターでカリッと焼き上がる音。立ち上るシナモンとグラニュー糖の甘い香り。差し出される温かい紙袋。販売窓越しに交わされる「美味しかったです!」の一言。

5分の待ち時間に込められた、焼きたてへのこだわり。1988年から続くブランドの確かな商品力と、2024年に始まった一台のキッチンカーの瑞々しい挑戦。

その両方が、ピンクの車体には乗っている。

関東一円のイベント会場で、もし鮮やかピンクのキッチンカーに「Since 1988 星のチュロス」の幕がかかっていたら――ぜひ立ち止まって、5分待ってみてほしい。

その5分の先に、テーマパーク級の一本が、待っている。


〈HOSHINO CHURROS〉店舗情報

項目 内容
屋号 HOSHINO CHURROS(ホシノチュロス/星のチュロス)
代表 豊 悠祐(とよ ゆうすけ)
キッチンカー開業 2024年5月
活動エリア 埼玉県中心、東京・神奈川・千葉
看板メニュー チュロス3種セット 900円
その他メニュー プレーン/シナモン/チョコレート/ミルクバター 各400円、チュロスドリンクセット 600円、アイスチュロス 600円
提供スタイル 注文後にオーブントースターで焼き上げ(約5分)
Instagram @hoshino_churros

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取材・文:キッチンカーの縁の下

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