キッチンカーの縁の下
オーナー取材

軽トラに、自作の箱を載せて。ジビエコタン・石橋征之さんが選んだ「日本一美味しいジビエ」への道|茨城県

白い軽トラックの荷台に、焦げ茶色の木の箱が載っている。既製のキッチンカーではない。店主が自分の手で建てた箱だ。

茨城県南を拠点に走る「ジビエコタン」。鹿と猪を中心に、ワニ、カンガルー、ラクダまでを炭火の串焼きで出す、ジビエ・希少肉専門のキッチンカーである。

店主の石橋征之さん(40代)が掲げるのは、こんな一言だ。

日本一美味しいジビエをどなたでもお気軽に

営業を始めたのは2026年9月。この記事の取材時点で、まだ開業から1週間ほどしか経っていない。走り出したばかりの1台に、なぜこれだけの背景が詰まっているのか。話を聞いた。

白い軽トラックの荷台に焦げ茶色の木の箱を載せた自作キッチンカーと、車体に手をかける店主

中学3年の蝦夷鹿が、すべての始まり

石橋さんは北海道の生まれだ。

北海道生まれの私が中学3年生の時に猟師さんから戴いた蝦夷鹿の味に感動したことがきっかけです。

キッチンカーを始めた理由を尋ねると、返ってきたのはこの一文だった。30年近く前の、一度の食体験。それがずっと残っていた。

進学で茨城に移り、そのまま茨城に根を下ろす。豚専門のホルモン焼き屋の店長、焼き鳥屋の店長として、飲食の現場で7年を過ごした。炭火に囲まれた7年である。

遠回りが、そのまま武器になった

ここから先が、他のキッチンカー開業者とは少し違う。

石橋さんは一度、飲食を離れている。清掃会社を起業し、大工、内装設備、電気工事、外構工事と手がけ、現在は不動産会社を法人として運営している。

飲食から離れた十数年。しかし結果として、この経験がキッチンカーに直結した。

その経験を活かしキッチンカーを自作し大好きなジビエの飲食業に携わらせていただいております。

内装も電気も自分で引ける。だから箱を自分で建てられる。開業総額は100万円以内に収まっている。キッチンカー1台の製作費として、これはかなり低い部類に入る数字だ。

一番大変だったのは「軽トラに載せる日」

開業までで最も大変だったことを聞くと、意外な答えが返ってきた。

キッチンカーを軽トラックに載せるところ。

建てることでも、内装を仕上げることでもない。完成した箱を、軽トラの荷台に載せる——その一日だったという。

大切な友人達でもある外構チームに手伝ってもらって載せることができました。また、心配だったのが、少し走って箱がバラバラに崩れ去らないかということでしたが、丈夫に作ることができていました。友人達は面白い方の展開を期待していたようですが。

販売窓から顔を出す店主と、車体の前に並ぶ2枚の手書きメニュー看板

崩れることを期待していた友人たちの顔が浮かぶような話である。箱は崩れなかった。

メニューは「みかん鹿」「みかん猪」、そして珍獣

看板に並ぶのは、見慣れない名前だ。

みかん鹿(ロース・レバー・ハツ 各500円)とみかん猪(ロース・レバー・ハツ・ハラミ・タン 各500円)。愛媛のみかん畑などで捕獲された個体を指す呼び名で、餌の影響から雑味が少なく、季節が進むと脂に柑橘の香りを感じることもあるという。

そこに、カンガルーのストリップロイン(600円)、ワニのタン・テールフィレ(各600円)、ラクダのキューブロール(600円)が並ぶ。

食べ比べセットも4種類ある。

セット名内容価格
みかん鹿セットロース・レバー・ハツ1,400円
みかん猪セットロース・レバー・ハツ・ハラミ・タン2,300円
珍獣ハンターセットカンガルー・ワニテールフィレ・ワニタン・ラクダ2,200円
ジビエ入門セットみかん鹿ロース・みかん猪ロース・カンガルー1,300円
カンガルー・ワニテールフィレ・ワニタン・ラクダが並ぶ珍獣ハンターセット
ロース・レバー・ハツの3本が並ぶみかん鹿食べ比べセット

時期や捕獲状況によって、熊、アナグマ、キョン、ハクビシン、ウサギ、ラム、ダチョウ、合鴨、ヤマシギなどが並ぶこともある。

なお石橋さんは罠の狩猟免許を持っているが、自分で捕獲した肉を提供しているわけではない。解体して客に届けるには許可を受けた食肉処理施設が必要で、仕入れは全国の産地から行っている。

こだわりは「山小屋感」

キッチンカーで一番こだわっているポイントを聞いた。

山小屋感です。理想は山小屋に招待してジビエを楽しんでいただきたいというところですのでこだわっております。

焦げ茶の外壁、木をそのまま見せた庇と窓枠。写真を見れば、狙いはすぐに伝わる。ちなみに「コタン」はアイヌ語で集落を意味する言葉である。北海道出身の石橋さんが、ジビエの楽しい集落になるようにと名付けた。

窓を開け、木の庇を立ち上げた状態のジビエコタンのキッチンカー外観

毎日の棚卸しと、産地との距離

開業後も続く難しさとして挙がったのが、仕入れだった。

こればっかりはやってみないと掴めないところがありましたので、不安でしたし今も毎日棚卸しをして機会損失とロスと闘い続けています。どうしても全国の産地から取り寄せるので発注したから明日すぐにご提供ができるという訳ではないところがジビエならではの難しいところです。

実際、9月7日のプレオープンでは、提供予定だった「みかん鹿」が捕獲状況の都合で納品されず、当日の提供を見送っている。野生の恵みである以上、発注すれば必ず届くという食材ではない。

一般的なキッチンカーの仕入れとは、リードタイムの感覚がまるで違う。ジビエを扱うということは、この不確実性ごと引き受けるということでもある。

「子どもがワニのタンを喜んで食べていた」

やっていてよかったと感じる瞬間を聞くと、箇条書きでいくつも返ってきた。

  • ジビエを初めて食べたけど美味しかった、という声
  • 「子どもがワニのタンがおいしくてびっくりしながら喜んで食べていた」という購入者の感想
  • インスタを見て来ました、というお客
  • 毎日買いに来て、職場の後輩にも勧めてご馳走してくれるお客
  • 「友達が昨日行ったみたいです」とメッセージをくれたお客
  • 毎日投稿を見て、再投稿して応援し続けてくれる友人

毎日感謝する日々を過ごさせていただきとても幸せです。やっぱり大好きなジビエのキッチンカーを始めて良かったと思います。

開業1週間で、これだけの手応えが返ってきている。

目指すのは、食肉処理施設

石橋さんの目標は、キッチンカーの先にある。

ひとつは固定店舗だ。酒とのペアリング、キッチンカーでは出せないメニュー。自分が美味しいと思ったものを全部出したい、と話す。

そしてもうひとつが、食肉処理施設の運営である。

全国の猟師さんの捕獲鳥獣の受け入れ先になることができれば猟師さんもより食肉としての供給ルートが安定し、現在捕獲の1割程しか食肉流通していないという現状を打破する一員になれると考えております。

捕獲された鳥獣のうち、食肉として流通するのはごく一部にとどまる——石橋さんはそう捉えている。だからこそ、串を焼くことがその入り口になる。

人間社会との衝突で捕獲されてしまう野生鳥獣を少しでもより多く最後まで命を大切に美味しく頂くというのがジビエコタンの理念でもあります。

これから始める人へ

最後に、これからキッチンカーを始めたい人へのメッセージを聞いた。ここは、ほぼそのまま載せたい。

ご自身が大好きなものをご提供されることが1番大切だと思っています。多少売り上げが理想的なものにならなかったとしてもご自身の使命からやり遂げることができると思います。

そして、現実的な話が続く。

そして最低でも2ヶ月分の余裕生活資金は確保して始めることと、キッチンカーを閉める決断をした時にすぐに新たな生活を始められる基盤を築いておくことが大切だと思います。

好きなものをやれ、という話と、辞めたときの備えをしておけ、という話が同じ口から出てくる。経営者として複数の事業を動かしてきた人の言葉だ。

そのうえで、こう締めくくられた。

でも、やってみたら意外となんとかなるかもしれません。

店舗情報

項目内容
屋号ジビエコタン
代表石橋 征之
業態ジビエ・希少肉の炭火串焼き
開業2026年9月
活動エリア茨城県一円(県南地域メイン)
主なメニューみかん鹿・みかん猪 各500円/カンガルー・ワニ・ラクダ 各600円/食べ比べセット4種
Instagram@gibierkotan

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取材・執筆:キッチンカーの縁の下 / 滝澤 仁

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滝澤 仁

この記事を書いた人

滝澤 仁
株式会社セレーノ代表取締役 / キッチンカーの縁の下 運営者・業界19年

長野県在住。2005年にキッチンカーで起業し、フランチャイズ本部・中古車両売買・業界メディアを手がける。出店する側・集める側・支える側、すべての立場を現場で経験してきた。

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