キッチンカーの縁の下
はじめての開業

キッチンカーは軽トラサイズで始めるべき?普通車サイズと比べた「あり/なし」の判断軸

「キッチンカーを始めたい。でも、軽トラサイズと普通車サイズ、どっちを選べばいいんだろう?」

開業準備で必ずぶつかる、車両サイズの選択。価格、運転のしやすさ、売上の天井、すべてが変わるので、ここを間違えると数百万円の買い物で後悔することになります。

この記事では、これからキッチンカーを始める方に向けて、軽トラサイズでの開業は「あり」なのか、それとも普通車サイズを選ぶべきなのか——どっちが自分に向いているかを判断できるよう、業界20年の現場感覚で整理しました。

この記事で言う「軽トラサイズ」とは
軽トラックの荷台に箱型のキッチンを載せて、車内で立って作業できるタイプのことです。後述する「軽バンタイプ」(車内で立てない、座って作業する形)とは別物として扱います。

📚 キッチンカー開業の全体像はこちら

【業界19年が本音で書く】キッチンカー開業の基礎知識|やめた方がいい人・向いてる人・準備期間・資金まで

大前提:4ナンバーではなく、8ナンバーで作ること

サイズ選びの話に入る前に、ひとつだけ大前提を確認させてください。

キッチンカーを作るときの登録区分には、4ナンバー8ナンバーがあります。結論から言えば、私は8ナンバー一択をおすすめしています

軽トラサイズで作る場合でも、ここは絶対に押さえてください。月数千円の維持費の差を惜しんで4ナンバーで作ると、車検場所の制約、引っ越し時の対応、中古売却時の不利、そして何より違法改造リスクや事故時に保険が下りない可能性——これらすべてが、後から重くのしかかってきます。

詳しくは先日公開した以下の2本で書いていますので、ぜひあわせて読んでください。

この記事では、「8ナンバーで作る」ことを前提に、軽トラサイズで作るか普通車サイズで作るかのサイズ選びに絞ってお話しします。

まず確認:軽バンタイプは原則おすすめしない

サイズ選びを始める前に、もうひとつ重要な前提があります。

軽自動車ベースのキッチンカーには、大きく2タイプあります。

  • 軽バンタイプ:エブリイ・ミニキャブ・サンバーなどがベース。車内で立てない。ワーゲン風・シトロエン風のかわいい顔をつけたタイプもこちら
  • 軽トラサイズ:軽トラックの荷台に箱を載せて、車内で立てるタイプ。本記事のテーマ

このうち、軽バンタイプは原則おすすめしません。理由は3つあります。

軽バンタイプをおすすめしない3つの理由

ひとつ、体がきつい。 狭くて車内で立てない軽バンで、ずっと座って調理を続けていたら、1日で背中も腰もバキバキになります。1日2時間程度のイベントならまだしも、スーパー前で朝10時から夕方18時まで8時間営業すると、ほとんどの人が体を壊します。

ふたつ、作業効率が悪く、提供スピードが遅い。 クレープのように生地を焼く場所とトッピングする場所が物理的に違う場合、座ったままでは体の向きを変えづらく、提供が遅くなります。お客様は、行列が長くても、提供が遅いと待ってくれません。大きなイベントで行列ができても、数をさばけないと売上を伸ばせない。

みっつ、資産価値がほぼない。 軽バンタイプは構造的にほとんど改造していないため、自作でも材料費10万円程度、外注しても30万円程度で作れます。中古市場でも、軽バンタイプのキッチンカーは50万〜100万円程度でしか流通しません。フランチャイズ本部などが200万・300万で販売しているケースもありますが、手放すときに大きく損をします。

よっつ、車内が狭く、機材や食材が積めない。 軽バンの車内はとにかく狭いので、看板やのぼり、発電機などを載せるだけで、もういっぱいになってしまいます。営業に必要な機材を全部積もうとすると、食材を載せるスペースが圧倒的に足りません。本格的に売上を上げようとすれば、別の車で材料を運ぶ必要が出てくるなど、非効率になりがちです。商材が小さくスペースを取らないものであればOKですが、それ以外では運営に無理が出ます。

軽バンタイプが「あり」な例外パターン

ただし、軽バンタイプが向いているケースもあります。

  • 作業がシンプルな商材:牛串をグリドルで焼くだけ、カレーやスープを盛り付けるだけ、エスプレッソマシンでコーヒーを淹れるだけ、など。注文を聞いてお釣りを渡し、体の向きを変えずにそのまま盛り付けて渡せる商材
  • 自作する場合:自分で作れる人なら、開業コストを大幅に抑えられる。シズル感も出せる
  • 試しに月1〜2回イベントで売る程度の趣味レベル

逆に言えば、本格的に商売としてキッチンカーをやるなら、軽バンタイプは避けたほうが無難です。

軽トラサイズ開業のメリット

軽バンタイプを除外したうえで、軽トラサイズ(車内で立てるタイプ)のメリットを見ていきます。

1. 初期投資を抑えられる

軽トラサイズは、ベース車両(新車で120〜160万円程度)+ 架装費(100〜200万円)で、合計230万〜380万円程度で作れます。普通車サイズ(1tトラックなら350万円〜)と比べて、100万円以上抑えられます。

初期投資を抑えられれば、開業時の借入額も少なくて済み、月々の返済負担が軽くなります。これは商売を続けるうえで地味に効いてきます。

2. 狭いスペースに入れる、出店料が安いケースもある

軽トラサイズの本当の強みは、狭い場所への出店ができることです。

  • 細い道に入れる
  • 狭いイベント会場でも搬入しやすい
  • 住宅街、河川敷の狭いスペースなどにも対応できる

スペースの狭い場所に出店機会が限られるなら、軽サイズが圧倒的に有利です。また、軽自動車ベースは設置スペースが少なく済むため、出店料が普通車に比べて安いケースもあります

なお、よく「軽トラは運転がしやすい」と言われますが、現場の感覚で言うと、それほど大きな差ではありません。普通車サイズ(1.5tトラックタイプまで)も普通免許で乗れます。長距離移動のしやすさや積載量を考えると、普通車サイズのほうが運転は楽な場面もあります。

3. 1人作業に適している

1人でキッチンカーを運営する場合、軽トラサイズはちょうどいいサイズです。車内で立って作業はできますが、複数人が同時に動けるほど広くはない。逆に言えば、1人でぐるりと手が届く範囲にすべての設備が収まる、コンパクトな動線を作れます。

「2人以上で作業する」「ピーク時にスタッフを増員する」ことを想定するなら、軽トラサイズでは手狭になります。

軽トラサイズの制約・デメリット

メリットだけではなく、制約をきちんと理解しておくことが、後悔しないために大事です。

1. 積載・調理スペースに制限がある

軽トラックは荷台のサイズも積載量も限られています。具体的には次のような制約が出てきます。

  • 食材・在庫を多く積むことができない
  • 大型の調理器具が載せられない場合がある(コールドテーブル程度なら大体載せられますが、業務用の大型グリドルやオーブンなど、サイズの大きい調理器具は積めないことも。たとえばケバブのように調理器具自体が大きいものは、軽トラサイズでは現実的に難しい)
  • 仕込みが必要な200L以上の給水タンクを積むと、スペースを大きく食う(ガスボンベ自体は軽トラサイズでも積めます。ただし、しっかり仕込みが必要で200L以上の給水タンクが必要な商材は、調理スペースも考えると普通車トラックタイプが現実的)

「1日で何百食も売る」「大量の仕込みが必要」「大型調理器具が前提」のような商売には、根本的に向きません。

2. 車内高さは2.5m前後が現実的

「軽トラサイズで車内で立って作業できるキッチンカー」を作る場合、全高は2.5m前後になることが多いです。私自身、これまで作ってきたキッチンカーはすべて2.5mで設計しています。

なぜ2.5mに集中するかというと、加工車(8ナンバー特種用途自動車)の構造要件で、調理設備付近の床面から上方に原則1,600mm以上の作業空間を確保する必要があるためです(設備と乗降口の距離が2m未満の場合は1,200mm以上に緩和)。この基準を満たしつつ、車体の天井厚みや床の構造を含めて実用的に作ると、外側の全高はおおむね2.5m前後になります。

ちなみに、軽自動車の規格は全高2.00m以下です。車内で立って作業できる軽トラベースのキッチンカーは、その時点で軽自動車の規格を超えるため、必ず普通車の8ナンバー加工車として登録することになります。「軽トラサイズだから軽自動車」ではない、という点は押さえておいてください。

そして、2.5mを大きく超える設計は避けたほうが無難です。高くするほど重心が上がって走行時の安定性が落ちますし、立体駐車場・店舗の駐車場入口・歩道橋の下などで通れない場面も増えます。横風の影響も受けやすくなります。「車内高さを確保したい気持ち」と「走行時の安定性」のバランスで、2.5m前後が落とし所になっている、ということです。

車内で立てると言っても、身長180cm以上の人が天井に頭をぶつけずに作業できる高さを確保するには、設計時の工夫が必要です。

3. 長距離移動は疲れる

これは正直なところ、軽トラベースで長距離は疲れます

  • エンジンが小さく、加速が悪い
  • 80km/h程度がスムーズに走れる限界
  • 重い装備を載せているので、坂道がきつい
  • 長時間運転で運転手の疲労がたまる

地元の30〜50km圏内で出店している分には問題ありませんが、毎週のように100km以上離れた場所のイベントに出るなら、軽トラサイズは負担が大きいです。

4. 売上の天井がある

これは先日公開した時間あたり売上記事とも繋がる話ですが、軽トラサイズは1人作業が前提なので、1時間あたりの売上に天井があります

1人でピーク時1時間に売れるマックスは、おおむね5〜6万円程度。これを超える売上を狙うなら、2人以上で作業できる普通車サイズが必要になります。

軽トラサイズが向いている人

ここまでの整理を踏まえて、軽トラサイズを選ぶべき人を明確にします。

大きく言えば、1人で通常出店がメインなら軽トラサイズ、イベントで複数人で出るなら普通車サイズ——この線引きが、いちばん分かりやすい指針です。そのうえで、もう少し細かく見ていきます。

1人で運営する人
ピーク時もスタッフを雇わず、自分1人で回す前提なら、軽トラサイズで十分です。

大量の在庫・積載が必要ない商材
クレープ、ホットドッグ、コーヒー、レモネード、たこ焼きなど、調理器具が大きすぎず、食材在庫もそこまで大量に必要ない商材。

初期投資を抑えたい人
普通車サイズより100万円以上安く始められるのは、開業期にとって大きなメリット。

地元中心(片道50km圏内)で出店する人
日常の出店範囲が地元なら、軽トラサイズで困ることは少ない。

狭いイベント会場、住宅街、河川敷など、機動力が求められる場所が多い人
小回りがきく軽トラサイズの真価が出る場面。

「まず始めて、続けながら考える」スタイルの人
リスクを抑えて始めて、軌道に乗ったら2台目に普通車サイズを足す、という戦略もアリ。

普通車サイズが向いている人

逆に、普通車サイズ(1tトラック・2tトラック等)を選ぶべき人はこういう方です。

2人以上で作業する前提の人
普通車サイズなら、車内に複数人が立って同時に動けます。売上の天井が一気に上がります。

大型イベント・フェスを中心に出店したい人
何百食、何千食を1日で売るような現場は、軽トラサイズでは絶対に対応できません。

大量の在庫・大型設備が必要な商材
たくさんの食材在庫が必要なメニュー、大型の冷蔵設備や調理機器が必要な商材。

長距離移動が多い人
毎週100km以上の移動があるなら、普通車サイズのほうが運転手の負担が圧倒的に軽い。

将来的に売上スケールを伸ばしたい人
1日30万円・50万円といった売上を狙うなら、初めから普通車サイズで作る判断もあり。

イベントで目立ちたい人
普通車サイズは、車体側面に大きなターポリン看板をつけられます。イベントでは「目立ったもん勝ち」の側面もあるので、視認性で集客に差がつく場面では、普通車サイズの大きな看板が武器になります。

自分はどっちか判断するチェックリスト

ここまでで概要は掴めたと思いますが、もう一歩具体的に、自分はどっちを選ぶべきか判断するチェックリストを置きます。

以下に 3つ以上当てはまるなら、軽トラサイズ向きです。

  • ☐ 基本的に1人で運営するつもり
  • ☐ 商材は調理がシンプル(クレープ、コーヒー、ホットドッグなど)
  • ☐ 初期投資はできるだけ抑えたい
  • ☐ 出店範囲は地元・近隣中心
  • ☐ 狭い場所・住宅街・河川敷などへの出店も視野にある
  • ☐ 1日売上は5〜15万円のレンジを想定している

逆に、以下に 3つ以上当てはまるなら、普通車サイズ向きです。

  • ☐ 2人以上で作業する予定
  • ☐ 大型イベントやフェスへの出店を目指している
  • ☐ 大量の食材在庫や大型設備が必要な商材
  • ☐ 毎週100km以上の移動が想定される
  • ☐ 1日売上20万円以上を目指している
  • ☐ 初期投資400万円以上は許容できる

両方とも該当しない、あるいは半々の場合は、まず軽トラサイズで始めて、軌道に乗ってから普通車サイズに買い替える or 2台目を足す、という段階的アプローチが現実的です。

まとめ:軽トラサイズは「あり」、ただし条件次第

要点を振り返ります。

  • 大前提として、8ナンバーで作ること。4ナンバー問題は先日公開した2本の記事を参照
  • 軽バンタイプ(車内で立てない)は、シンプル商材以外は原則おすすめしない
  • 軽トラサイズ(車内で立てるタイプ)は、1人作業 × シンプル商材 × 地元中心なら十分に「あり」
  • 積載・調理スペースの制限、全高2.5m前後の現実、長距離移動の疲れ、売上の天井——制約を理解したうえで選ぶ
  • 大規模に、複数人で、遠方まで——を目指すなら、最初から普通車サイズへ

キッチンカーは、車両サイズで売上の天井がほぼ決まります。「とりあえず安いから軽トラサイズ」と決めるのではなく、自分が3年後・5年後にどんな商売をしていたいかから逆算して選んでください。

そして繰り返しますが、どのサイズで作る場合も、8ナンバーで作ることだけは譲らないでください。詳しくは、コスト比較記事4ナンバー問題の記事を必ず読んでください。

縁の下では、キッチンカー製作会社一覧(/makers/)も公開しています。実際の見積もりを取るときの参考にしてください。

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滝澤 仁

この記事を書いた人

滝澤 仁
株式会社セレーノ代表 / キッチンカーの縁の下 運営者・業界19年

長野県在住。2005年にキッチンカーで起業し、フランチャイズ本部・中古車両売買・業界メディアを手がける。出店する側・集める側・支える側、すべての立場を現場で経験してきた。

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