キッチンカーの縁の下
はじめての開業

キッチンカーで一番必要なのは「体力」だった|19年の現場が教えてくれたこと

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この記事は、キッチンカーの開業から運営までを体系的にまとめたキッチンカー開業の基礎知識の関連記事です。あわせてお読みください。

これからキッチンカーを始めたい方、そして今キッチンカーをやっていて体力に不安がある方に向けて、すごく大事な話をします。

キッチンカーで一番必要なものは何か。商品の魅力。出店場所。資金。SNSの発信力。どれも大事です。でも、19年この業界でやってきて、そして多くのオーナーや事業者に聞いても、おそらく多くの人が口を揃えて言うものがあります。

それは、体力です。

なぜ体力が一番なのか。そして、どうすればその体力をつけられるのか。経験を交えて、本音でお話しします。


キッチンカーは、想像以上の体力仕事

まず、キッチンカーがどれだけ体力を使う仕事か、少し書き出してみます。

店舗営業と違って、キッチンカーは移動します。移動前の積み込み。現場に着いてからの設営。営業が終わってからの片付け。帰ってきてからの積み下ろし。大量の洗い物。重いものを運ぶ買い出し。

現場では、発電機、ポータブル電源、大量の重い商材を運んで、狭い車内で動き続ける。夏は車内が灼熱になる。仕込みで睡眠不足になる。そして長時間労働。

ちょっと書き出すだけで、これだけ体力を使う仕事です。こんな体力仕事、他にあるでしょうか。

だからこそ、断言します。キッチンカーで一番必要なのは、体力です。


体力の衰えを痛感した、あるイベント

ここで、私自身の話をします。

私は今年52歳です。40歳くらいから体力の低下を感じ始めて、45歳くらいで急激に衰えを実感しました。そのきっかけになった出来事があります。

八ヶ岳クラフトフェアという、八ヶ岳の麓で行われる3日間のイベントです。春と秋に開催されて、クラフトの出店者と来場者で毎回賑わう。キッチンカーも15台くらい出店して、どこも朝10時の開始から夕方16時まで、行列が途切れないほどのイベントです。

毎年出店していたので慣れていたんですが、7、8年前、過去最高の来場者数だった年がありました。3日間ぶっ通しで忙しくて、本当に疲れ果てました。イベントが終わってから1週間くらい、動けないくらい疲れ果ててしまったんです。

その時、はっきり実感しました。「同じように動いても、体はもう今までとは違うんだ」と。

これではこの先やっていけない。体力をつけないと駄目だ。そう思ったのが、すべての始まりでした。


まずは「歩く」ことから始めた

体力をつけようと思って、最初に何をしたか。

実は、走ろうとしたんです。でも、息が上がってすぐに駄目でした。だから、まず歩くことから始めました。毎朝、近所を歩く。それを1、2年続けたでしょうか。

そんなある日、たまたまお店でホカオネオネというランニングシューズを見つけたんです。それを買って履いてみたら、すごく走りやすくて、自然と足が前に出るような感覚で、走らずにはいられなくなった。

そこからは、もう毎日走らないと気が済まなくなりました。気がつけば、大雨が降らない限りは毎朝走るのが習慣になっていました。今では出張先や旅行先でも、知らない土地を走る喜びに目覚めて、毎年地元のマラソン大会にも出るようになりました。毎回タイムを縮めています。ランニングは、もう7、8年続いています。

最初の一歩は、走ることでなくてよかったんです。歩くことからで十分。そこから自然と、走れる体になっていきました。


筋トレを始めたら、発電機が軽くなった

走ることに加えて、筋トレも始めました。きっかけは、正直に言うと、体がおじさんっぽくなってきたのがカッコ悪いな、と思ったからです。

ベンチプレスとダンベルでトレーニングを始めました。そうしたら、思いがけない効果がありました。

ある日、重い発電機を持ち上げた時に、「あれ?軽い」と感じたんです。今までと全然違う。

考えてみれば当たり前なんです。発電機はガソリンとオイルを入れて30kg程度。でも私は普段から、片手で24kgのダンベルを持ち上げている。だから30kgの発電機が軽く感じるのは、当然のことだったんです。

体を鍛えることが、そのまま現場の仕事の楽さに直結する。 これを身をもって体感しました。重い積み込み、長時間の立ち仕事、灼熱の車内——体力があるだけで、同じ作業がまるで違ってきます。


筋トレで鍛えているのは、実は「脳」

ここからが、今日いちばん伝えたい話です。

経営者が筋トレをする理由として、よく語られる考え方があります。それは、「筋肉を大きくするためではなく、脳を鍛えるため」という考え方です。

サッカーの中田英寿さんの言葉を借りるなら、トレーニングとは身体を鍛えることではなく、脳が出す「もうやめろ」という指令の限界を、少しずつ押し広げることだ、ということになります。

どういうことか、説明します。

普通の人は、筋トレをこう考えます。筋トレをする、筋肉がつく、体が強くなる。でも、もう一つの捉え方があります。

筋トレをすると、脳が「もう無理」「今日はやめよう」「あと1回はキツい」と言ってくる。それでも、あと1回やる。すると、脳のブレーキが少し弱くなる。その結果、仕事でも踏ん張れるようになる。

例えばベンチプレス。10回目で「もう上がらない」と思う。でも、補助の人がいると11回目が上がる。つまり、本当に限界だったわけじゃなくて、脳が先に止めていただけなんです。

これは経営もまったく同じです。

「集客を始めても誰も来なかったらどうしよう」「SNSを今さら再開しても見られないかも」「投稿を作るのが面倒だ」——脳はいつもこう言ってきます。でも、1本でも投稿を作ってみる。出してみる。すると脳は「あれ?できた」「これくらいなら大丈夫なんだ」と学習するんです。

筋トレで鍛えているのは、腕でも胸でもなく、「不快なことをやり続ける能力」だと、多くの経営者が考えています。

一番わかりやすい例が、冬の朝です。目覚ましが鳴る。脳は「今日は寒いし寝よう」と言う。そこで起きる。すると脳は「この人は言うことを聞かないな」と学習する。これを何百回も繰り返すと、仕事でも「面倒だからやめよう」という脳の指令に、従いにくくなるんです。

筋肉を鍛えているようで、実は意志力を鍛えている。これが、「脳のリミッターを外す」という考え方です。


限界は、自分が勝手に決めているだけ

私自身、これを本当に痛感しています。

今まで「朝だるいな」「もう無理だな」と思っていたことが、体を鍛えることで変わりました。脳が限界を感じていただけで、実はその先にちゃんと到達できる。

これはキッチンカーの日常業務でも同じです。

売上なんて、まさにそれです。「もうこれ以上売れない」と思っても、毎回少し負荷を増やして、積み込む量を増やして、オペレーションを見直して、提供スピードを上げて、効率化していく。そうすると、次の年に同じイベントでも、前の年の売上を軽く超えてしまうことがよくあるんです。

自分の限界なんて、本当はないんです。それは自分が勝手に決めているだけ。

よく、こういう話があります。象が子どもの頃から鎖につながれて育つと、大人になって檻から出られる力があっても、出ようとしなくなる。ノミが、一度ふたをされた箱に入れられると、ふたを外してもそれ以上ジャンプしなくなる。

人間も同じです。限界は自分が勝手に思っているだけで、本当はちゃんと超えられるんです。


経験が、脳を活性化させる

もう一つ、印象的な経験があります。

私が27歳の時、東京のイタリアンレストランで働いていました。めちゃくちゃな人気店で、キッチンにはジャンジャン大量のオーダーが入る。その中に「センターポジション」という、オーダーを各ポジションに指示する司令塔のような役割があるんです。

最初にそのポジションをやった時は、オーダーに全然対応できませんでした。でも、経験を積んでいくと、脳が活性化されて、飛んでくるオーダーが止まって見えるような感覚になるんです。野球でいう、球が止まって見える、あの感覚に近いと思います。

だから、なんとでもなるんです。

こういう経験を重ねていくと、経験値がついてくる。「あ、また来たな。でもこれは限界に見えるけど、超えられるやつだ」。そんなふうに、俯瞰で見られるようになります。そして面白いことに、超えられる壁しか出てこないんですよ。


だから、続けることが一番大事

体力づくりも、トレーニングも、一番大事なのは、とにかく続けることです。

キッチンカーをやっている方の中には、「そんな時間はない」「疲れていてそんなことできない」と言う人もいると思います。でも、それも限界を頭が勝手に決めちゃっているだけなんです。

そして、具体的にどうすればいいか。

ジムには行かなくていいんです。 お金がかかるし、何より面倒くさい。続きません。別に、朝近くを走ればいいだけです。ランニングシューズが一足あればいい。

筋トレも、ダンベルが一つあればいい。しっかりしたやつじゃなくても大丈夫。ダンベルを買わなくても、腕立てでもいいし、走った先の公園で懸垂したっていい。毎日やるだけで、驚くほど体力がつきます。

そうすると、楽になるんです。

今までは体力がないと、疲れ切って頭も働かなくなる。そうすると、「どうやってお客様に喜んでもらうか」とか、「SNSの投稿どうしよう」とか、「事務処理だるいな、明日にしよう」ってなっちゃう。でも体力がつくと、それも全部できるようになるんです。不思議なんですけどね。


体力がないタイプだからこそ、工夫する

ただ、正直なことも言っておきます。

体力って、持って生まれたものでもあるんです。寝なくても平気、動き続けても平気、足も速い、そういう能力だらけの人も世の中にはたくさんいます。

でも私は、比較的体力がすごくあるタイプではないんです。子どもの頃から、遊びすぎると頭が痛くなるような、そんな子でした。今でもそう。遊びすぎるとどっと疲れる。人と比較しても、そんなに体力があるほうじゃない。

じゃあ、どうするか。

体力づくりはもちろんですが、私は30歳の時にタバコをやめました。お酒は大好きでしたが、45歳くらいから、大酒を飲むのはやめました。というか、飲めなくなりました。そして規則正しい生活をして、睡眠時間をとにかく大切にするようになりました。

朝早く起きて、陽の光を感じながら走って、食事をちゃんと取って、仕事も遊びもしまくって、お風呂でリラックスして、倒れるように寝る。そうすると、活力が出てくるんです。

こういう積み重ねが、本当に大事です。生まれつき体力がなくても、工夫と習慣で、いくらでもカバーできます。


これから始める人へ

今、私は登山やバックカントリーといった遊びにも力を入れています。体力的に言ったら、若い頃より全然あります。遊べるし、仕事もできる。

最後に、本当に言っておきます。

これからキッチンカーをやる人は、あらかじめ体力をつけておいてください。鍛える習慣を身につけておいてください。これは絶対です。

体力さえあれば、キッチンカーの仕事はぐっと楽になります。そして、頭も心も前向きに動くようになります。商品開発も、集客も、事務作業も——全部、体力という土台の上に乗っているんです。

開業の準備というと、車両やメニューや資金の話になりがちですが、本当に最初に準備すべきは、自分の体かもしれません。


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滝澤 仁

この記事を書いた人

滝澤 仁
株式会社セレーノ代表 / キッチンカーの縁の下 運営者・業界19年

長野県在住。2005年にキッチンカーで起業し、フランチャイズ本部・中古車両売買・業界メディアを手がける。出店する側・集める側・支える側、すべての立場を現場で経験してきた。

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