キッチンカーの縁の下
はじめての開業

キッチンカーの保険、結局どれが必要?任意保険・PL保険・施設賠償をまるごと整理

「キッチンカーを始めたいけれど、保険って何に入ればいいんだろう」
「すでに営業しているけれど、入っている保険が適正か不安」

——保険は範囲が広く、わかりにくく、そして後回しにされがちなテーマです。でも、いざ事故が起きたときに保険がなければ、賠償金で人生が終わります。

この記事では、キッチンカーで本当に必要な保険を、現役オーナー目線で整理します。「これは絶対必要」「これは不要」「これは状況次第」を、はっきりお伝えします。これから開業する方も、すでに営業中の方も、保険の全体像を見直すきっかけにしてください。


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まず結論:絶対に必要な保険は2つだけ

長く話せばいくらでも複雑になりますが、シンプルに言えばこうです。

絶対に必要なのは、「車両の任意保険」と「PL保険(生産物賠償責任保険)」の2つだけ。

これ以外は、状況や売上規模に応じて検討すればOKです。逆に、この2つが抜けているとキッチンカーの運営は成り立ちません。

順番に解説します。


1. 車両の任意保険(自動車保険)

絶対に加入する。これは前提。

キッチンカーは公道を走る車両です。自賠責保険は法律で義務付けられているので、すべての車が加入していますが、これだけでは絶対に足りません。自賠責は対人賠償のみで、限度額も低い(死亡時最大3,000万円)。対物賠償・自分の車・搭乗者への補償はゼロです。

ここで必要になるのが任意保険です。これは絶対に加入してください。

補償内容の基本

最低限、以下の補償は付けるべきです。

  • 対人賠償:無制限(事故で相手を死亡させた場合、賠償額は数億円に達することがあります)
  • 対物賠償:無制限(他人の車や建物を壊した場合)
  • 人身傷害(自分や同乗者のケガに対する補償)

逆に、車両保険は付けなくていいと私は考えています。理由は2つ。

ひとつ、車両保険は保険料が大幅に上がります。年間で数万円のレベルで違ってきます。

ふたつ、事故で車両保険を使うと翌年から保険料が大幅に上がります。等級が3つ下がり、その影響は3年間続きます。たとえば年7万円の保険料が、10万円超に跳ね上がる。3年間で合計8万円以上の追加負担になります。

10万円程度の修理であれば、車両保険を使わずに自費で修理したほうが結果的に安く済みます。それなら最初から車両保険なしで、修理費用を別途プールしておくほうが合理的です。

詳しくは先日公開した時間あたり売上記事でも書きました。

8ナンバー車の任意保険は「代理店経由」になる

ここはキッチンカー特有の事情です。

ソニー損保、SBI損保、チューリッヒなどのネット系の安い自動車保険は、8ナンバーの加工車を引き受けてくれません。これらは普通の乗用車向けに設計されたシステムなので、特種用途自動車(8ナンバー)は対象外なのです。

つまり、キッチンカーを8ナンバーで作る場合(これは強くおすすめしています。詳しくは4ナンバーvs8ナンバーのコスト記事を参照)、代理店経由で保険に加入することになります。

主な選択肢は以下です。

  • 東京海上日動
  • 損保ジャパン
  • 三井住友海上
  • JA共済(農協)
  • あいおいニッセイ同和損保

これらの保険会社の地域代理店、または製作会社経由で見積もりを取ります。ネット系の安価な保険と比べると割高に感じるかもしれませんが、これは8ナンバー車の宿命です。

等級の引き継ぎは見落としがちなポイント

これは知らない人が多いので強調します。

既に普通車で自動車保険に加入している人は、その等級(無事故割引のランク)をキッチンカーに引き継げることがあります。長年無事故で20等級に達していれば、新規でキッチンカー保険を作るより圧倒的に安く済みます。

具体的には、

  • 元の車を残したまま、キッチンカーを2台目として登録する場合 → セカンドカー割引・複数台割引が使える
  • 元の車を手放して、キッチンカーに切り替える場合 → 等級をそのまま引き継ぐ

代理店に「等級を引き継げますか?」と必ず確認してください。年間数万円の差になることがあります。

運転者条件は要注意(スタッフを雇うなら必須)

これは先日のスタッフ募集記事でも触れた話です。

保険を「本人限定」「家族限定」「年齢条件」で絞っていると、バイトが運転して事故を起こした場合に保険金が出ません。スタッフに運転を任せるなら、運転者の限定を外しておく必要があります。保険料は上がりますが、ここは必須コストです。


2. PL保険(生産物賠償責任保険)

こちらも絶対に加入する。

PL保険は、提供した食品で食中毒やケガ・物損を発生させた場合に、被害者への賠償をカバーする保険です。

「自分は気をつけてるから大丈夫」と思う方も多いですが、食中毒はどれだけ注意してもゼロにはできません。気温、湿度、食材の状態、お客様の体調——どこかにわずかな油断があれば発生します。

そして、食中毒が発生すれば、

  • 被害者への治療費・休業補償
  • 慰謝料
  • 営業停止の損失
  • 風評被害

——これらが一気に降りかかります。1件で数百万〜数千万円の賠償になることもあり、規模によっては億単位になります。この賠償をPL保険なしで個人で背負うのは現実的に不可能です。

イベント出店でも提示が求められる

PL保険はリスク対策としてだけでなく、実務上も必須です。

多くのイベント主催者や出店場所では、出店申し込み時にPL保険の加入証明書の提出を求められます。「PL保険に入っていない店は出店させない」というルールが、今はほぼ業界の標準です。

つまり、PL保険に入っていないと、そもそも出店できる場所が大きく限られます。「キッチンカーをやるなら入る」ではなく、「キッチンカーをやる前提として、必ず入っておくもの」として考えてください。

キッチンカーオーナーの主な選択肢は2つ

キッチンカー業界でよく使われているPL保険は、主に以下の2つです。

A. あんしんフード君(日本食品衛生協会)

最もメジャーな選択肢です。日本食品衛生協会が運営する共済制度で、損害保険会社(三井住友海上)が引受先になっています。

補償内容:

  • 生産物賠償(食中毒等):1口あたり1億円、最大10口=10億円まで
  • 施設賠償(店舗の欠陥や従業員の過失による事故):生産物賠償と合わせて1億円×口数
  • 受託物賠償(お客様から預かったものの紛失等):被害者1名10万円
  • ノロウイルスの二次感染も補償

ポイント:

  • 生産物賠償と施設賠償が両方含まれるので、別に施設賠償保険に入る必要はありません
  • 年会費(食品衛生協会)+共済掛金がかかります
  • 売上規模やリスク区分により掛金が変わる
  • 売上3,000万円以下の小規模事業者には特にコスパが良いと言われる

加入手順:

  1. 最寄りの食品衛生協会に問い合わせ
  2. 食品衛生協会の年会費を支払って入会(地域により金額が異なる)
  3. あんしんフード君に申し込み
  4. 共済掛金は売上規模で算出される

B. ビジネス総合保険(商工会議所/商工会経由)

商工会議所または商工会の会員向けに提供される保険商品です。

ポイント:

  • 商工会議所/商工会の会員になることで加入可能
  • 賠償責任(生産物・施設・受託)、休業損害、財物損害などをセットで設計できる
  • 補償内容は柔軟に組める

加入手順:

  1. 地元の商工会議所または商工会に問い合わせ
  2. 会員になる(年会費がかかる)
  3. ビジネス総合保険を希望する旨を伝え、見積もり

どちらを選ぶか:年会費と補償の比較

ここが選択のポイントです。あんしんフード君もビジネス総合保険も、補償内容自体は大きく変わりません。比較のポイントは2つ。

ひとつ、年会費がどちらが安いか。食品衛生協会の年会費か、商工会議所/商工会の年会費か。地域によって金額が大きく違うので、必ず両方確認してください。

ふたつ、他のメリット。食品衛生協会に入ると食品衛生関連の情報が入ってきます。商工会議所に入ると経営相談や補助金情報、ビジネスネットワークが得られます。「保険以外の付加価値」も加味して選びましょう。

私は両方とも入った経験がありますが、地域によって会費が大きく違うので、「どちらが絶対お得」とは言えません。両方に問い合わせて、年会費と補償内容を比較するのが正解です。

キッチンカー専用保険(Mellow等)は?

最近は、Mellowが日本初のキッチンカー専用賠償責任保険を出すなど、専門商品も増えています。

ただ、私の個人的な見解としては、専用保険である必要はないと思います。あんしんフード君やビジネス総合保険でカバーできる範囲とほぼ同じで、しかも保険料が割高になりがちです。

製作会社が保険代理店として案内してくれることも多いですが、これは製作会社にバックマージンが入る商品である可能性があります。「ここのが安心」と勧められても、必ず他と見積もりを比較してから決めてください。


3. 施設賠償責任保険(単体での加入は基本不要)

施設賠償責任保険は、店舗(キッチンカー)の欠陥や従業員の過失により、お客様や第三者にケガや物損を負わせた場合の賠償をカバーする保険です。

具体例:

  • のぼり旗が風で倒れてお客様がケガをした
  • 車両から漏れた水で出店場所を汚した
  • キッチンカーの扉でお客様にケガをさせた

ただし、上記の通り「あんしんフード君」や「ビジネス総合保険」には、すでに施設賠償が含まれています。なので、これらに加入していれば、別途、施設賠償保険に単体で入る必要はありません

「PL保険に施設賠償が含まれているか」は加入時に必ず確認してください。


4. その他の保険(状況により検討)

ここまでが「必須」の話です。以下は状況によって検討するものです。

休業損害保険

事故や食中毒で営業を休まざるを得なくなった場合の収入を補償する保険です。あんしんフード君には休業補償特約(15日間限度)があります。本格的な休業損害保険を別途付けるかは、自分の事業規模と貯蓄状況で判断してください。

火災保険

キッチンカーには基本的に不要です。火災保険は固定店舗向けの商品で、移動するキッチンカーは対象外のことが多いです。仕込み場所に固定の店舗がある場合は、その店舗の火災保険を検討するくらいです。

スタッフを雇う場合の労災保険・雇用保険

スタッフを1人でも雇うと、労災保険は加入義務です。雇用保険も条件を満たせば加入義務。これは「保険」というより「法的義務」の領域なので、詳しくはスタッフ募集記事を参照してください。


保険の選び方:3つの原則

最後に、保険全般の選び方のコツを3つお伝えします。

原則1:必ず複数社で見積もりを取る

任意保険もPL保険も、必ず2〜3社から見積もりを取って比較してください。補償内容が同じなら、保険料は安いほうがいいです。製作会社や知人から勧められた1社だけで決めるのは、損する可能性が高い選び方です。

原則2:補償内容を揃えて比較する

「A社のほうが安い」と思っても、補償の範囲や限度額が違うことがあります。同じ補償内容に揃えて、保険料を比較するのが鉄則です。「対人無制限」「対物無制限」「人身傷害◯◯万円」など、条件を統一して見積もりを依頼してください。

原則3:「製作会社のおすすめ」を鵜呑みにしない

製作会社の多くは保険代理店も兼ねており、紹介する保険商品からバックマージンを得ています。これは違法ではありませんが、製作会社にとって都合のいい商品を勧められている可能性を念頭に置いてください。

「ここで作ったから、保険もここで」と流されず、必ず他社と比較する。これは製作会社の選び方記事でも書いた、相見積もりの原則そのものです。


まとめ:絶対必要なのは2つだけ

要点を振り返ります。

  • 絶対必要な保険は2つだけ:車両の任意保険 と PL保険
  • 車両の任意保険:対人無制限・対物無制限・人身傷害は必須。車両保険は付けない。8ナンバーは代理店経由(東京海上・損保ジャパン・JA共済等)
  • PL保険:「あんしんフード君」(食品衛生協会経由)か「ビジネス総合保険」(商工会議所経由)。年会費と補償を比較して選ぶ
  • 施設賠償は単体不要:あんしんフード君やビジネス総合保険に含まれている
  • 火災保険は不要:キッチンカーには不要
  • スタッフを雇うなら労災保険は加入義務
  • 必ず複数社で見積もりを取る。製作会社の紹介を鵜呑みにしない

保険は「あって良かった」と思うのは、何かが起きてからです。逆に「無くて良かった」という結論は、何も起きないまま引退した時にしかわかりません。

絶対に必要な2つは、必ず加入してください。そして、補償内容と保険料を、年に一度は見直す習慣を持ちましょう。

※本記事の情報は2026年6月時点のものです。保険商品の内容や保険料は変更されることがあるため、加入時は必ず各保険会社・共済の最新情報をご確認ください。

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滝澤 仁

この記事を書いた人

滝澤 仁
株式会社セレーノ代表 / キッチンカーの縁の下 運営者・業界19年

長野県在住。2005年にキッチンカーで起業し、フランチャイズ本部・中古車両売買・業界メディアを手がける。出店する側・集める側・支える側、すべての立場を現場で経験してきた。

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