キッチンカーの縁の下
はじめての開業

5年前の「4ナンバー問題」その後――業界20年の経営者が振り返る、キッチンカー業界の5年間と、まだ残る本質的な問題

5年前、私はYouTubeで何を訴えたか

5年前、2020年。

私は自分が運営するサニーズクレープのYouTubeチャンネルで、「告発、今キッチンカーが危ない」というタイトルの動画を投稿しました。

そして1ヶ月後、その続編動画も投稿しました。

タイトルに「告発」という強い言葉を選んだのは、それくらい伝えなければいけないと思っていたからです。

何を訴えたか。一言で言えば、こうです。

「今、業界には違法改造のキッチンカーが大量に出回っています。このままでは、いつか大きな事故が起きて、業界全体が終わります」

これが、5年前の私のメッセージでした。

当時の業界は、本当に異常だった

2020年頃の業界の状況を、覚えている方も多いと思います。

4ナンバーの軽トラックに、キッチンBOXをボルトでガッチリ固定したキッチンカーが、街中に溢れていました。

軽自動車の規格(全高2m以下)を明らかに超えているのに、構造変更されないまま4ナンバーの黄色いナンバーで公道を走っている。本来であれば8ナンバーへの構造変更が必要な車両が、車検時だけ箱を降ろして「素の軽トラ」として車検を受け、また箱を載せて営業する。

これが当たり前のように行われていました。

そして、何より問題だったのは、製作会社自身が、その販売方法を「合法」のように説明していたことです。

「車検時に箱を降ろせば大丈夫ですよ」
「軽自動車ナンバーのままで維持費が安いですよ」
「みんなやってますから」

そんな案内で、何も知らない初心者オーナーに、グレーな車両を売っていたのです。

この記事で書くこと

この記事は、先日公開した「4ナンバーの維持費は本当に安いのか?」の続編です。

前回の記事では、純粋に維持費の事実だけをお伝えしました。年間4〜5万円の差、都道府県格差、車検費用の実態。

でも、私が本当に伝えたかったのは、維持費の話ではありません

維持費の差は、月に換算すれば数千円。これだけなら、4ナンバーを選んでも8ナンバーを選んでも、人生が大きく変わるほどの差ではありません。

問題は、もっと深いところにあります。

4ナンバーで作られたキッチンカーの多くが、合法とは言いにくい状態で走っている。 そして、事故が起きたとき、保険が下りない可能性がある。そうなれば、加害者も被害者も、家族も、すべてが終わります。

この記事では、5年前の告発動画で訴えたこと、その後の業界の変化、そして今もなお残っている問題について、業界20年の経験を踏まえてお話しします。

5年前、業界に何が起きていたか

5年前の話に入る前に、そもそもなぜ4ナンバーの軽トラキッチンカーが大量に出回ったのか、その背景を振り返ります。

きっかけは、10年ほど前

おそらく今から10年ほど前(2015年頃)から、4ナンバーの軽トラキッチンカーが業界に少しずつ増え始めました。

それまでのキッチンカーは、8ナンバーの構造変更車両が主流でした。

私自身が2007年にキッチンカーを始めたとき、業界の常識は「キッチンカーは8ナンバー、当たり前」でした。サニーズクレープを作ってくれた製作会社「あいあんクック社」も、迷いなく8ナンバーで作ってくれました。当時のキッチンカー本やノウハウ書でも、紹介されているのはほぼすべて8ナンバーの車両でした。

それが、ある時期から変わり始めました。

ある大手製作会社の広告戦略

業界に大きな変化をもたらしたのは、ある大手製作会社の登場でした。

彼らが大規模な広告戦略でキッチンカー市場に参入し、大量に投入したのが、4ナンバーの軽トラベースキッチンカーでした。

軽トラの荷台に、アルミフレーム+アルミ複合板で作った箱を載せる。ボルトでガッチリ固定する。それなのに、構造変更はしない。4ナンバーのまま販売する。

「初期費用が安い」
「維持費が安い」
「すぐに開業できる」

こうした分かりやすいメリットを前面に出した広告で、彼らは急速にシェアを拡大しました。

そして数年で、業界ナンバー1の製作会社になりました。

クレープFC各社も追随

その成功を見て、他の会社も同じビジネスモデルに追随しました。

クレープのフランチャイズで言えば、いくつかのクレープFC本部も4ナンバーの軽トラキッチンカーで加盟店を募集するようになりました。

当時の私は、それを見て「不思議で仕方ない」と感じていました。

「同業のクレープFCとして、これでいいの?」

「ちゃんと加盟店に説明できているの?」

「車検のとき、どうするつもりなんだろう?」

サニーズクレープでは、当然のように8ナンバー一択で加盟店向けの車両を提案していたので、なぜ他社が堂々と4ナンバーで売っているのか、本当に理解できませんでした。

なぜ、こんなことが起きたのか

私なりに分析すると、こういう構造でした。

①キッチンカーブームで、製作会社が一気に増えた

2015年頃から、キッチンカーが少しずつ流行り始めました。テレビでもイベントでも、キッチンカーを見かける機会が増え、「起業の手段としてキッチンカーをやりたい」という人が急増しました。

そこに、車に詳しいけれどキッチンカー業界の常識を知らない製作会社が、続々と参入してきました。

8ナンバーの構造変更は、書類仕事も陸運局への持ち込みも面倒です。新規参入した会社にとっては:

  • 構造変更の知識がない
  • 構造変更の手続きが面倒
  • 構造変更のコストを抑えたい
  • 4ナンバーのほうが「軽自動車のメリット」として売りやすい

こうした理由で、「じゃあ4ナンバーで売っちゃえばいいじゃん」という会社が次々と出てきました。

②古くからの8ナンバー専門メーカーは、声を上げなかった

一方、昔から8ナンバーで真面目に作ってきたキッチンカー製作会社や、キャンピングカー製作会社は、「軽トラに箱を載せただけで売るなんて、あり得ない」と思っていました。

でも、こうした会社は、わざわざ業界に対して問題提起をしませんでした。自社の顧客には正しく説明していて、自分たちのビジネスは問題なく回っているので、業界全体の問題に積極的に発信する動機がなかったのです。

③購入する側に、知識がなかった

そして何より、買う側に知識がなかった

これからキッチンカーで開業したい初心者は、構造変更とか8ナンバーとか、聞いたこともない言葉です。製作会社の人に「車検のときに箱を降ろせば大丈夫ですよ」と言われれば、「そういうものなのか」と信じてしまいます。

プロが言うんだから大丈夫だろう」という心理が働きました。

個人のDIYは自己責任、でも会社はダメ

ちなみに、当時の私は個人のDIYで4ナンバー軽トラに箱を載せること自体は、自己責任なら良いと思っていました。

軽トラの荷台に、自分で大工さんに頼んでアルミの箱を作ってもらって載せる。ロープでくくる。そういう個人レベルのDIYは、キッチンカーの自由さの象徴でもあります。

でも、「会社として、ビジネスとしてやる以上、法令遵守は基本中の基本」です。

製作会社というプロを名乗って、グレーな車両を初心者に売って、十分な説明もしない。これは、私の中では絶対に許せない行為でした。

私が警鐘を鳴らした理由

そんな業界の状況を見ながら、私はずっとモヤモヤしていました。

いつか、誰か声を上げなきゃ
でも、私が言ってもいいのか?
製作会社を敵に回すんじゃないか?

葛藤の中で、私が「これは絶対に発信しないとマズい」と決断したのには、いくつかのきっかけがありました。

きっかけ1:キッチンカーの事故報道

業界には、時々、キッチンカーの事故報道が流れていました。

走行中の事故、出店中の事故、横転、転倒、火災。キッチンカーは普通の自動車と違って、車高が高くて重心も高いため、事故になりやすい乗り物です。

特に、改造で車高を上げた車両は風の影響を受けやすく、横風で大きく揺れます。荷台に重い設備を載せているため、加速も悪く、ブレーキの効きも普通の軽トラとは違います。

ある日、業界の事故ニュースを見ていて、ふと思いました。

「もし、4ナンバーの違法改造状態のキッチンカーで人身事故が起きたら、どうなるんだろう?」

調べてみると、答えは衝撃的でした。

「違法改造車両の状態で起こした事故では、任意保険が下りないケースがある」

これは三井ダイレクト損保の公式サイトにも、はっきりと記載されていました。

きっかけ2:家族の存在

私には家族がいます。

ある時、こんな想像をしました。

「もし、誰かの違法改造キッチンカーに、自分の大切な人が跳ねられたら?」

「もし、保険が下りなくて、その家族が何の補償も受けられなかったら?」

「もし、私自身が事故を起こす側だったら?」

私自身、5年前(2019年頃)に、出張先で追突事故を起こしてしまった経験があります。

愛媛から高知へ向かう峠道で、脇見運転をしてしまい、前の車に追突しました。

幸い、相手は軽いむち打ち程度で済みました。でも、その車の後部座席には、子供が乗っていました。

もし、もっと大きな事故になっていたら

想像するだけで、今でもゾッとします。

事故は、どんなに運転に自信があっても起きます。普通に走っていても子供が飛び出すかもしれない。対向車が突っ込んでくるかもしれない。誰もが、いつ加害者になるか分からないのが、車という乗り物です。

だからこそ、保険があります。万が一のとき、被害者を守るため、自分の人生も守るために。

その保険が、違法改造状態だと下りない可能性がある。

これは、もう「個人の問題」では済まされない、と私は思いました。

きっかけ3:焼肉えびす事件の記憶

そして、もう一つ。私が決断した大きなきっかけは、業界全体が終わる可能性でした。

覚えている方も多いと思います。焼肉えびす事件です。

2011年、富山県を中心に展開していた焼肉チェーン店で、腸管出血性大腸菌に汚染された生レバーやユッケが原因で、複数の死亡者を出した食中毒事件が起きました。

この事件を受けて、生レバーやユッケの提供が全国的に厳しく規制されました。私自身、レバ刺しが大好きだったので、本当にショックでした。

そして、思いました。

「これと同じことが、キッチンカー業界でも起きるんじゃないか?」

もし、違法改造のキッチンカーで死亡事故が起きたら。
もし、メディアが「キッチンカー業界には違法車両が大量に出回っている」と報道したら。
もし、行政が一斉に規制に動いたら。

業界全体が、終わる可能性があります

たった一つの事故で、真面目にやっている人も含めて、全員が商売できなくなる。これが、過去に焼肉業界で実際に起きたことです。

私はキッチンカーが大好きで、20年やってきました。
そんな業界が、一部の無責任な製作会社のせいで終わるのを、黙って見ていられませんでした。

きっかけ4:利害関係のない私だからこそ

それでも、しばらくは発信に踏み切れずにいました。

私が言わなくても、誰か言うんじゃないか
大手の8ナンバー製作会社が、業界として声を上げるんじゃないか

でも、待っても待っても、誰も声を上げません。

理由を考えると、みんな利害関係があるんです。

  • 製作会社は、業界批判はできない(同業の悪口になる)
  • 大手キッチンカーオーナーは、特定の製作会社を批判できない(取引関係がある)
  • 業界団体は、会員企業を批判できない
  • 保険会社は、自社の販売実績に影響する

完全に第三者の立場で、この問題を語れる人は、業界にほとんどいませんでした

私自身、サニーズクレープというFC本部を運営していて、車両販売や中古車両仲介はしていません。製作会社とは利害関係がない立場です。

だから、私が言うしかない。そう決断しました。

5年前の動画で訴えたこと

ここからは、5年前に私がYouTubeで何を訴えたのか、その核心部分をお伝えします。

動画の全文は、当時のYouTubeチャンネルに残っています。視聴回数は現時点で約3万回(2026年5月時点)。決して大きな数字ではありませんが、それでもキッチンカー業界では一定の影響力があったと思っています。

訴えたこと1:構造変更の手抜き問題

動画で最も伝えたかったのは、「軽トラの荷台に箱を載せただけで、構造変更をしていないキッチンカーが大量に出回っている」ということでした。

具体的に問題視したのは、こういう車両です。

問題点①:軽自動車の規格(全高2m)を超えている

軽自動車として登録するには、全長3.4m、全幅1.48m、全高2.0m以下に収まる必要があります。

ところが、キッチンカーとして十分な設備を載せると、ほぼ間違いなく全高は2mを超えます。立って調理できる高さにするだけで、最低でも2.2m〜2.5mは必要です。

つまり、軽自動車規格を超えているのに、4ナンバーの軽自動車として登録されたまま公道を走っている。これは明らかに、車検証の記載内容と実車の状態が違う状態です。

問題点②:ボルト固定なのに「積載物」と言い張る

そういった4ナンバー軽トラキッチンカーは、車検時にどうしているのか。

箱(シェル)を降ろして、素の軽トラとして車検を受けるんです。

「箱は積載物だから、降ろせばいいだけ。だから合法」という説明でした。

でも、私はこれを認めませんでした。理由は、箱と軽トラがボルトでガッチリ固定されているからです。

ボルトで固定されているということは、車体と一体化しているということです。手で簡単に外せない、容易に降ろせない状態。これを「積載物」と言うのは、無理がある。

訴えたこと2:国土交通省の通達

私が訴えたのは、感覚や感情論ではありません。国土交通省の公式通達に基づいた話です。

国土交通省から、車検を管轄する地方陸運局長宛に出された通達には、こう書かれています。

「主たる使用目的遂行に必要な構造及び装置を有し、車枠又は車体に、特種な目的遂行のための設備の指定部品は、ボルト、リベット、接着剤又は溶接により確実に固定されているものをいう。

なお、蝶ねじ類、テープ類、ロープ類、針金類、その他これらに類するもので取り付けられた設備は、確実に固定されているものに該当しないものとする」

つまり、国の公式見解として:

  • ボルト固定 → 「確実に固定されているもの」=積載物ではない、車体の一部
  • 蝶ねじ・ロープ固定 → 「確実に固定されていない」=積載物として扱える

このように、明確に区別されています。

「車検時に箱を降ろせばOK」というのは、この通達の精神からすれば、明らかにグレー、もしくは違反です。

そして、トラック協会やトラック架装メーカーのウェブサイトでも、「不正な二次架装」として、こうした行為が問題視されていました。

「新規検査の際には、部品を取り外す又は取り付けないで重量を軽い状態として受検し、その後、部品を取り付ける行為」

これが「不正な二次架装」であり、国土交通省が立入検査・指導を行っている対象だと、明記されていました。

訴えたこと3:保険が下りないリスク

そして、私が最も伝えたかったのは、保険の問題でした。

違法改造状態の車両で事故を起こした場合、どうなるか。

三井ダイレクト損保のウェブサイトには、こう書かれています。

「違法改造状態の車両で起こした事故では、保険金が支払われないケースがあります」

つまり、車両自体が違法な状態だと、任意保険に加入していても、いざというとき保険金が下りない可能性があるということです。

これがどういう意味か、想像してみてください。

  • 人身事故を起こした
  • 相手に重傷を負わせた、もしくは死亡させた
  • 損害賠償は数千万円〜数億円
  • でも、保険金が下りない
  • 自己破産しても、被害者への賠償責任は消えない

人生が、文字通り終わります。自分の家族の人生も、事故した相手の人生も。

そして、もう一つ。

業界全体への影響です。

もし、違法改造のキッチンカーで死亡事故が起きて、それがメディアで大きく取り上げられたら。「キッチンカー業界には違法車両が溢れている」と世間に知れ渡ったら。

業界全体が規制対象になります。真面目に8ナンバーでやっている人も含めて、商売ができなくなる可能性があります。

過去に焼肉業界で実際に起きたことが、キッチンカー業界でも起きないとは限らない。

これが、私が5年前に訴えたかったことです。

動画投稿後の炎上と反響

告発、今キッチンカーが危ない」というタイトルで動画を投稿した後、業界は大きく揺れました。

「炎上」というほどの規模ではなかったかもしれませんが、業界の中では確実に話題になりました。

賛同の声、反発の声

動画には、たくさんのコメントが寄せられました。

賛同の声:

「今回の動画、ありがとうございます。私の疑問が1つ解決しました。キッチンカー業界に警鐘を鳴らす素晴らしい動画です」

「今キッチンカーにおいて一番の問題点ですね。当たり前のように『軽トラの荷台に箱を乗せる』という表現が蔓延している状態です」

「自分の無知を責めます。某有名車両製作会社で購入しましたが、該当車両である事をこの動画で知りました」

特に印象的だったのは、「自分の車がそういう状態だったとは知らなかった」というオーナーからの声でした。

製作会社から十分な説明を受けないまま購入し、動画を見て初めて、自分の車がグレーな状態だと知ったという人が、想像以上に多かったのです。

一方で、反発の声も

もちろん、反発する声もたくさんありました。

「いい加減で無責任に不安を煽って仕事をとろうという動画に見えます」

「軽トラに箱乗せたタイプのキッチンカーはそのまんま積載物扱いなのだから車検の時に下ろせばいいだけです。違法じゃないよ」

「違法かどうかは貴方の感覚や経験で決まるわけではありません。法律で定めた内容であれば何ら問題にはなりません」

こうしたコメントは、おそらく4ナンバー車両を販売している製作会社の関係者や、4ナンバーで運営しているオーナーからのものだったと思います。

私自身、コメントを見ながら「自分の言い方が悪かったかな」「もう少し丁寧に説明すべきだったかな」と反省もしました。

コメント欄での議論が、教育の場になった

面白かったのは、コメント欄で詳しい人が解説してくれたことです。

たとえば、こんなコメントがありました。

「投稿者ではありませんが、キッチンカー等に携わる仕事をしていたことがあるので、あくまでも『個人的な見解』を上げさせていただきます。ボルトで固定したら構造変更が必要ということを知らない人が多いのが現状です」

業界に詳しい第三者の方が、コメント欄で丁寧に解説してくれたんです。

私の動画自体は不完全だったかもしれませんが、コメント欄を含めて1つの教材になっていきました。「動画を見て、コメント欄も読んで、初めて理解できた」という声も多くいただきました。

続編動画で補足

動画投稿の1ヶ月後、私は続編動画を投稿しました。

続編で伝えたかったのは:

  • 前回の動画で「違法」と断定しすぎたことへの反省
  • 国土交通省への問い合わせ結果
  • 法律の専門家ではない自分の限界
  • それでも警鐘を鳴らし続ける理由

自分の立場と見解」を改めて明確にし、煽るためではなく、業界の未来のために発信していることを伝えました

そして、それでも結論は変わりませんでした。

「軽トラ+箱をボルトで固定して、構造変更していない車両は、リスクを抱えている。サニーズクレープでは今後も導入しないし、私はこういう車には乗らない

これが、5年前の私の最終的なメッセージでした。

国土交通省への問い合わせ結果

続編動画を作るにあたって、私は実際に国土交通省自動車局整備科に電話で問い合わせをしました。

ここで分かったことが、業界のグレーゾーンの正体でした。

国交省の回答

担当者からの回答は、こうでした。

「車の構造に大きな変更が生じる場合は、15日以内に陸運局で構造変更検査を受けないとなりません」

これは予想通りの回答です。法律上、改造したら構造変更が必要。当然です。

ところが、もう一つの回答が衝撃でした。

「車検時に軽トラ単体として車検を受けていれば、その後大きな変更が生じたとしても、その車両の改造状態を監視するシステムは、国土交通省や陸運局、警察にありません。なので、わからないという判断です」

つまり、こういうことです。

  • 本来は、大きな改造をしたら構造変更が必要
  • でも、車検の時に「軽トラ」として車検を受けてしまえば、その後どう改造しているかは誰も追跡しない
  • 改造した本人が自分で申告しない限り、誰にも分からない

これが、グレーゾーンの正体でした。

警察も管轄外

ちなみに、警察も同じく管轄外です。

走行中のキッチンカーを止めて、「この車、構造変更してますか?」と確認するシステムはありません。

警察が動くのは:

  • 大幅な積載量オーバー(これは取り締まり可能)
  • 明らかな違反運転(危険運転、速度超過など)
  • 事故が起きたとき

このいずれかの場合だけです。普通に運転している分には、誰も止めません。

つまり、現実問題として、バレません。これが、4ナンバー軽トラキッチンカーが業界に蔓延した本当の理由です。

でも、事故が起きたら…

しかし、事故が起きた瞬間に、すべてが明るみに出ます

  • 事故車両の検証で、改造状態が判明
  • 保険会社が「違法改造車両」と判断したら、保険金不払いの可能性
  • 被害者側の弁護士が、車両の違法性を主張
  • 裁判になれば、構造変更の有無が論点に

「バレないから大丈夫」という考えで運営している間は、確かに何も起きません。

でも、事故は、誰にでも、いつでも起きます

私自身、5年前に追突事故を起こしました。脇見運転という、自分の不注意でした。運転に自信があった私でも、起こしました

事故が起きた瞬間、「バレなければ大丈夫」という前提が崩れ去ります。そのとき、初めて自分の車両の違法性に直面する。これが、最悪のシナリオです。

5年経って、業界はどう変わったか

5年前に動画を投稿してから、業界には少しずつ変化が起きました。

私の動画だけが原因ではないと思います。業界全体の意識が、徐々に変わってきたのです。

変化1:大手製作会社も8ナンバー中心に

私が告発動画で名指しを避けつつ問題視した、当時4ナンバー軽トラを大量投入していた製作会社

5年経って、彼らも8ナンバー中心の製作に移行しているように見えます。

公式ウェブサイトや広告を見ても、最近は構造変更済みの8ナンバー車両を中心に紹介しています。4ナンバーを完全にやめたわけではないかもしれませんが、主力ラインナップは8ナンバーに移った印象です。

変化2:FC各社の動向

5年前に4ナンバーで加盟店募集していたいくつかのクレープFC本部

そのうちの一つ、「ベリーズカフェ」を運営していた株式会社NE PROJECTは、2023年10月に破産手続き開始となりました。負債額は約1.2億円。直接の原因はコロナ禍によるイベント需要の激減とロイヤリティ収入の減少でしたが、業界の動向と無関係ではないかもしれません。

他のFC本部も、近年は8ナンバー中心の車両提案に変わってきたところが多いです。

業界全体として、「4ナンバーで売るのはマズい」という認識が、少しずつ浸透してきたのだと思います。

変化3:固定方法の進化

5年前と比べて、目立つ変化が固定方法です。

最近の4ナンバー軽トラキッチンカーは:

  • ボルト固定ではなく、手回しで外せるロープや金具で固定
  • 蝶ネジ式の取り付け
  • 車検時に本当に簡単に箱を降ろせる構造

このように、「積載物として認められる固定方法」を採用する車両が増えてきました。

これは国交省の通達に沿った形で、「箱は本当に積載物です」と主張できる作りになっています。

ただし、これも完全に合法かというと、まだグレーな部分が残ります。固定方法だけでなく、車両全体の構造を見て判断されるので、車検時の検査官の判断によります。

それでも、5年前のような「ボルトでガッチリ固定して、車検時だけ外す」というあからさまな運用は減りました。

変化4:オーナーの意識の変化

オーナー側の意識も、少しずつ変わってきました。

これからキッチンカーを始める人の中には、「構造変更って何ですか?」「8ナンバーで作りたいんですけど」と最初から聞いてくる人が増えてきました。

5年前は、こうした知識を持って業界に入ってくる人は少数派でした。今は、購入前にウェブで調べる人が増え、知識を持った状態で製作会社にアプローチする人が増えています。

変化5:中古市場での扱い

私が運営している縁の下のサービスでも実感していますが、中古キッチンカー市場で、4ナンバー車両は売りづらくなっています。

買い手側が:

「4ナンバーは車検が面倒だから」

「製作会社に持ち込まないといけないんでしょ?」

「自分の地元じゃ整備できないと困る」

と判断するようになり、8ナンバーの同等車両より20〜50万円安い価格でしか売れない状況になっています。

買うときは安いけど、売るときも安い」――これが、4ナンバーキッチンカーの中古市場での現実です。

でも、まだ残っている問題

5年で業界は良い方向に変わってきました。でも、まだ問題は残っています

問題1:今でも4ナンバーで販売している会社がある

業界全体が8ナンバー中心に移行している中でも、今でも4ナンバーで販売している製作会社は存在します。

理由は、いくつかあります:

  • 小規模な車屋さんで、構造変更の手続きが面倒
  • 「初期費用が安い」をセールスポイントにしたい
  • キッチンカー専門ではなく、ついでに作っている
  • そもそも構造変更が必要だと知らない

こうした会社から購入してしまうと、自分の車が4ナンバーで合法かどうか分からないまま運営することになります。

問題2:知らずに購入する新規開業者が後を絶たない

これからキッチンカーで開業したい人は、毎年、新しく業界に入ってきます

その中で、ナンバーの違いを理解せずに購入してしまう人は、5年前から減ってはいるものの、ゼロにはなりません。

安くキッチンカーが手に入った」と喜んで購入し、2年後の車検で初めて問題に直面する。これは、5年前と変わらず、今でも起きています。

問題3:保険会社の対応も、まだ統一されていない

保険会社によって、違法改造車両への対応は微妙に違います。

  • 厳しく対応する会社:契約時点で違法状態だと加入を断る、もしくは事故時に保険金不払い
  • 甘い会社:契約時にチェックが甘く、事故になって初めて問題視する

このため、「保険に入れたから合法」という誤解も生まれます。保険に加入できることと、保険金が下りることは別の話です。

問題4:メディアの情報が少ない

5年経った今でも、4ナンバー vs 8ナンバーの違い、構造変更の重要性を、わかりやすく解説したメディアはほとんどありません。

業界の他のキッチンカーメディアは、製作会社や広告主との関係があるため、こうした問題には踏み込みません。

結局、新規参入者は正しい情報にアクセスする手段がないまま、製作会社の説明を信じて購入してしまいます。

問題5:実際の事故事例の検証が公開されない

「違法改造車両の事故で、保険が下りなかった」という具体的な事例は、ほとんど公開されません。

理由は:

  • 個別のケースは保険会社と当事者の問題で、公にならない
  • 当事者が公開を望まない
  • メディアが取り上げない

結果として、「本当に保険が下りなかった事例はあるの?」という疑問が解消されないまま、リスクだけが残っている状態です。

これからキッチンカーを始める人へ

ここからは、これからキッチンカーで開業する人へのアドバイスです。

20年やってきた業界の先輩として、心から伝えたいことがあります。

アドバイス1:8ナンバーを選んでください

シンプルに、これだけです。

「8ナンバーで作ってください」と、最初から製作会社に伝えてください。

理由は、これまでの記事で何度も書いた通り:

  • 車検をどこの整備工場でも受けられる
  • 車両保険・任意保険で安心
  • 事故時のリスクを最小化
  • 将来手放すときも売りやすい
  • 業界の信頼を維持する

維持費の差は、月に換算すれば数千円。これだけのメリットを考えれば、8ナンバー一択です。

アドバイス2:製作会社を見抜く質問

製作会社を選ぶとき、必ず聞いてほしい質問があります。

「車検は、どこの整備工場でも受けられますか?

この質問に対して:

  • ✅ 「はい、どこでも受けられます」と即答する会社 → 信頼できる
  • ❌ 「うちに持ってきてくれれば大丈夫です」と言う会社 → 警戒

「うちに持ってこないとダメ」と言われたら、それは構造変更されていない可能性があります。あるいは、構造変更されていても、製作会社が独自の整備を必要としている特殊な車両かもしれません。

どちらにせよ、「全国どこでも車検が受けられる、合法的な8ナンバー車両」を作ってくれる会社を選んでください。

アドバイス3:信頼できる製作会社の見抜き方

正直に言って、信頼できる製作会社を見抜くのは、初心者には難しいです。私自身、20年見てきて、騙された事例を数多く見てきました。

それでも、いくつかの判断材料があります。

①長い実績がある:5年、10年と続いている会社は、ある程度信頼できる
②キャンピングカー製作の経験がある:8ナンバーの構造変更に慣れている
③価格が安すぎない:8ナンバーで真面目に作れば、ある程度の価格になる
④細かい説明をしてくれる:質問に対して丁寧に答える会社は、信頼できる
⑤紹介・口コミがある:既存オーナーから紹介される会社は安心

これらすべてが揃った会社を選んでください。

アドバイス4:わからないことは聞いてください

正直、初心者には判断が難しいことも多いです。

そんなときは、業界の先輩に相談してください。

私が運営している「キッチンカーの縁の下」では、業界20年の経験で開業相談を無料で受けています(クレープ業態を除く)。LINEで気軽にご相談ください。

この製作会社、大丈夫ですか?」「この見積もり、適正ですか?」――そんな質問でも構いません。

すでに4ナンバーで運営している人へ

ここまで読んで、「自分の車、もしかしてグレーな状態かも?」と不安になった方もいるかもしれません。

すでに4ナンバーで運営している方への、現実的なアドバイスです。

まずは現状確認

自分の車が、どういう状態か確認してください。

車検証を見て:

  • 「自動車の種別」が「軽自動車」になっているか
  • 「車体の形状」が「トラック」または「バン」になっているか
  • 「最大積載量」の記載があるか

実車を見て:

  • 箱(シェル)はボルトでガッチリ固定されているか
  • それとも蝶ネジ・ロープ・手回し金具などで固定されているか
  • 全高は2mを超えているか

車検証の記載と実車の状態が一致しているかが、重要な判断ポイントです。

選択肢1:8ナンバーへ構造変更する

合法的にする最も確実な方法は、8ナンバーへの構造変更です。 やり方は2パターンあります。

パターンA:自分で変更して申請する

費用は申請手数料のみで、数千円程度に抑えられます。

軽トラックをベースにして、箱部分の架装で高さ・幅・長さなどが軽自動車規格を超える場合、基本的には次の流れになります。

  1. 軽自動車としては一度使えない前提で設計する
  2. 普通車または小型車として保安基準に適合するか確認する
  3. 架装図面・寸法・重量・固定方法などを準備する
  4. 運輸支局/自動車技術総合機構へ事前相談・事前書面審査
  5. 架装する
  6. 構造等変更検査、または新規検査を受ける
  7. 合格すれば普通車または小型車の8ナンバー加工車として登録

特に令和7年(2025年)10月1日以降は、用途・乗車定員・車両総重量・自動車の種別などを変更する車は、検査前に「新規検査等届出書」を提出し、事前書面審査が必要になる扱いが案内されています。対象変更には「軽から普通又は小型に変更」も含まれています。

出典:自動車技術総合機構「用途等の変更をする使用過程車等は事前書面審査が必要です」(令和7年3月)

書類作成や図面準備、運輸支局とのやり取りを自分で行える方には、最もコストを抑えられる方法です。

パターンB:製作会社へ依頼する

費用の目安は10万円〜20万円(車両の状態による)です。

ただし、構造変更を受け付けてくれる会社は限られます。手間がかかる作業なので、嫌がる会社も多いのが実情です。依頼先を探す段階でつまずくケースも少なくありません。

おすすめのアプローチ:

  1. お近くのキッチンカー製作会社に電話して、相談
  2. 縁の下に登録されている全国155社の製作会社リストから、自宅から近い会社を探す
  3. 構造変更だけでも引き受けてもらえますか?」と問い合わせ

縁の下の製作会社一覧:
https://ennoshita.online/makers/

選択肢2:売却して買い替える

今の車両を中古で手放して、新たに8ナンバー車両を購入する選択肢もあります。

ただし、第7章でも書いた通り、4ナンバー軽トラキッチンカーは中古で売りづらいのが現状です。8ナンバー同等車両より20〜50万円安く売ることになる可能性があります。

それでも、長期的に見れば、安心して運営できる8ナンバーに乗り換える価値はあります

縁の下の縁結び(中古キッチンカー売買サポート)では、こうした売却の相談も受けています。

選択肢3:このまま続ける(自己責任で)

正直に言います。

「このまま4ナンバーで続けたい」と判断するのは、自由です。

ただし、それは完全に自己責任です。

  • 事故時に保険が下りないリスク
  • 違反車両として取り締まりを受けるリスク
  • 業界全体への影響を考えると、本来は避けるべき

これらを理解した上で、それでも続けると決めるなら、何かあったとき、自分と家族と被害者の人生が終わる覚悟を持って運営してください。

業界全体へのメッセージ

最後に、業界全体に向けて、伝えたいことを書きます。

製作会社へ

初心者への説明を、しっかりしてください

「車検時に箱を降ろせばいい」「維持費が安いですよ」――こうした断片的な説明だけで売るのは、もうやめてほしいです。

ナンバーの違い、構造変更の意味、車検場所の制約、保険のリスク。すべてを丁寧に説明した上で、お客様に選んでもらってください。

車は、人を殺してしまう危険性がある乗り物です

そのことを、製作会社のプロとして、誰よりも自覚していてほしい。

これからキッチンカーを始める人へ

8ナンバーを選んでください

「知らなかった」では済まされない問題です。安いから、簡単だから、という理由で4ナンバーを選ぶのは、自分の人生を賭ける選択になります。

月に数千円の差を惜しんで、何十年もリスクを抱えるのは、賢明な判断ではありません。

すでに4ナンバーで運営している人へ

今からでも、選択肢はあります

構造変更する、売却する、自己責任で続ける。どの選択でも、ちゃんと考えた上で決めてください

そして、事故を起こさないよう、誰よりも安全運転を心がけてください

業界団体・行政へ

最後に、業界団体や行政の方が見てくれているなら。

キッチンカー業界には、まだ規制が追いついていない部分が多くあります

  • 4ナンバーと8ナンバーの境界線
  • 構造変更の必要性の判断
  • 違法改造車両の取り締まり
  • 保険会社との連携

こうした部分で、業界全体としてのルール作りが必要だと思います。

一つの大きな事故が起きてから動くのではなく、今のうちに、業界の透明性を上げる仕組みを作っていただきたいです。

最後に ―― 5年経って、今思うこと

5年前に告発動画を投稿したとき、私は「これで業界が変わる」とは思っていませんでした。

私はただのクレープのFC本部運営者で、YouTubeの登録者も多くない、業界では小さな存在です。私が声を上げたところで、業界全体が動くとは思っていませんでした。

でも、5年経って、業界は確実に変わりました

100%変わったわけではありません。今も4ナンバーで販売している会社はあるし、知らずに購入する人もいます。

でも、5年前と比べて、業界の意識は明らかに上がりました。これは、私一人の功績ではなく、業界全体の人たちが、少しずつ声を上げ続けた結果だと思っています。

キッチンカーは、人を幸せにする仕事

私は、キッチンカーが大好きです。

20年やってきて、たくさんのオーナーと出会いました。個性的で、楽しくて、自分の好きなことを仕事にしている素敵な人たちです。

そして、たくさんのお客様の「美味しかった、また来るね」という声を聞いてきました。これがキッチンカーの素晴らしさです。

だからこそ、業界がリスクを抱えたまま、いつか壊れることが、本当に怖いんです。

これからも、声を上げ続けます

私は、これからも業界の本音を発信し続けます。

縁の下というメディアを通じて、ブログを通じて、YouTubeを通じて、LINEを通じて。業界の健全化と、これから始める人が安心して開業できる環境作りを、続けていきます。

5年後、10年後、「キッチンカー業界、本当に良くなったね」と言える日が来るように。

そのためには、業界に関わるすべての人の協力が必要です。

最後に、お願い

この記事を読んでくださった方へ、最後にお願いです。

もし、この記事の内容に共感していただけたら、周りのキッチンカー仲間にシェアしてください。

特に、これからキッチンカーを始めようとしている人4ナンバーで運営していて不安を感じている人に届けてほしいです。

一人でも多くの人が、正しい情報を持って判断できるように。
一人でも多くの人が、安心して開業できるように。
業界全体が、健全な方向に進むように。

私が5年前に伝えたかったことは、今も変わりません。

「安心して乗れるキッチンカーで、安心して商売してください

それが、20年やってきた私から、業界へのお願いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


この記事の執筆者

滝澤 仁 (たきざわ ひとし)
株式会社セレーノ 代表取締役 / サニーズクレープ本部
長野県在住。キッチンカー業界20年の経験を持つ。サニーズクレープ本部としてフランチャイズ33店舗を立ち上げ、現場の本音を業界に発信し続けている。

キッチンカーを登録しませんか?

縁の下では、全国のキッチンカー事業者を募集しています。登録(無料)いただくと、対応エリアの出店募集情報をLINEで優先的にお届けします。

キッチンカー登録(無料)
滝澤 仁

この記事を書いた人

滝澤 仁
株式会社セレーノ代表 / キッチンカーの縁の下 運営者・業界19年

長野県在住。2005年にキッチンカーで起業し、フランチャイズ本部・中古車両売買・業界メディアを手がける。出店する側・集める側・支える側、すべての立場を現場で経験してきた。

プロフィールを見る →