キッチンカーの縁の下
開業ノウハウ

キッチンカーは飽和したのか?これからの勝ち筋を業界19年が本音で語る

「キッチンカーはもう飽和した」

ここ数年、この言葉を本当によく聞くようになりました。実際、キッチンカーの台数は増え続けています。人気イベントの出店枠は抽選になり、場所代は上がり、原材料費も上がり、仲介サービスに月額を払わないと良い案件にたどり着けない——そんな声が現場から聞こえてきます。

私はこの業界に19年います。自分でキッチンカーを走らせ、フランチャイズで全国30店舗以上を運営し、イベント側として出店者を募集する立場も経験してきました。その立場から、最初に結論を言います。

「キッチンカーは飽和した」は、半分本当で、半分嘘です。

飽和したのは「なんとなく始めた、どこにでもあるキッチンカー」と「都市部の人気出店枠」です。一方で、埋まっていない場所と、満たされていない需要は、今もはっきり存在します。そして稼いでいる人は、この2つの間の「ズレ」を正確に突いています。

この記事では、その「ズレ」がどこにあるのか、これから何を武器に戦えばいいのかを、精神論抜きで書きます。長い記事ですが、これから始める人にも、いま苦しくなってきた人にも、判断材料になるはずです。

第1章:まず現状を正確に見る——何が本当に起きているのか

勝ち筋の話をする前に、現状認識をそろえます。「飽和した」という言葉の中身を分解すると、実際に起きているのは次の4つです。

① 台数が増えた
コロナ禍で「店舗を持たない飲食」として注目され、開業のハードルが下がった情報が出回り、参入者が一気に増えました。これは事実です。

② 場所代が上がった
出店者が増えれば、良い場所の争奪戦になります。集客力のあるイベントや商業施設は、出店料を上げても応募が集まるため、相場は上昇傾向です。売上歩合15〜25%という大型案件も珍しくなくなりました。

③ 原材料費が上がった
小麦粉、油、乳製品、包材、ガソリン。キッチンカーのコスト構造のほぼ全部が値上がりしました。売価に転嫁しきれない店は、利益がそのまま削られています。

④ 仲介サービスが間に入るようになった
かつて出店場所は、人脈と足で探すものでした。今はマッチングサービスが場所と出店者の間に立ち、都市部の良い案件ほど「有料会員でないと応募すらできない」構造になりつつあります。

ここまで読むと暗い話に見えます。でも、同じ現実を反対側から見ると、まったく別の景色になります。

イベントの数そのものは増えています。 地域のマルシェ、商業施設の集客企画、企業の福利厚生、住宅展示場、学園祭、自治会の祭り。「模擬店を自前でやる体力がないから、プロのキッチンカーに任せたい」という主催者は、むしろ年々増えています。飲食提供の衛生管理が厳しくなったことで、素人の模擬店からプロのキッチンカーへの置き換えが進んでいるからです。

つまり、需要は増えている。供給も増えている。ただし、増えた需要と増えた供給の「場所」がズレている。 これが現状の正確な姿です。増えた供給は都市部の人気枠に殺到し、増えた需要の多く——地方の、平日の、小規模な、買取型の案件——は、今も出店者を探しています。

第2章:勝ち筋①「数字を持つ」——どんぶり勘定の店から先に消える

飽和した市場で最初に淘汰されるのは、味が悪い店ではありません。自分の数字を知らない店です。

キッチンカーの経費構造の目安を出します。売上を100としたとき:

  • 原材料費:30%
  • 場所代(出店料):10%
  • 包材:5%
  • 車両関連(燃料・維持費):8%
  • 決済手数料:2%
  • 水道光熱:10%
  • 残り=営業利益:35%

これが標準的な形です。上手い人はこれを50%近くまで持っていきます。逆に、この構造を把握していない店は、値上がりした原材料費が35%になり、相場より高い場所代を払って15%になり、気づいたら「忙しいのに手元にお金が残らない」状態になります。なお、売上側の相場感は「キッチンカーは1時間でいくら売れる?」で現役オーナーの実例を公開しているので、あわせて読んでください。

やることはシンプルで、出店1回ごとに「売上・原価・場所代・利益」を記録する。これだけです。エクセルでもノートでも構いません。1ヶ月分たまると、「どの場所が儲かっていて、どの場所が実は赤字なのか」が見えてきます。飽和市場で戦うというのは、この数字を見て、赤字の場所を切り、黒字の場所に集中するという、地味な作業の繰り返しです。

場所を判断する式もひとつだけ覚えてください。「出店料 ÷ 見込み売上」。出店料3万円でも30万円売れる場所なら10%で優良、出店料5千円でも2万円しか売れない場所なら25%で危険水域。出店料の絶対額ではなく、この比率で場所を評価する癖をつけると、「安いから」という理由で赤字の場所に通い続ける失敗がなくなります。

第3章:勝ち筋②「場所のポートフォリオ」——イベント一本足打法をやめる

苦しくなっている店に共通するパターンがあります。週末イベントへの一本足打法です。

週末の大型イベントは、確かに1日の売上は大きい。でも、出店枠の競争は激しく、出店料は高く、天候リスクを丸ごと被り、そして週末しか稼働できないので月の営業日数が8日前後になります。この戦い方は、供給過剰の影響を最も強く受けるゾーンで戦い続けることを意味します。

稼いでいる店は、収入源を3種類に分散しています。

① 平日の定期出店(ベース収入)
オフィス街、工業団地、病院、郊外の商業施設、大学。「近くに飲食店がない」「昼食の選択肢がない」場所での平日ランチ営業です。1日の売上はイベントより小さいですが、天候の影響が少なく、毎週同じ場所に立つことで常連がつき、読める収入になります。そして重要なのは、このゾーンは都市部の人気イベントと違って、まだ埋まっていないということです。ランチ難民が発生している場所は、地方に行くほどたくさんあります。

② 週末イベント(上振れ収入)
イベントをやめる必要はありません。ただし「数字で選ぶ」。第2章の比率で優良案件だけに絞り、盛った来場者数を鵜呑みにせず、過去実績のあるイベントを優先します。

③ 保証・買取案件(確実収入)
売上保証(相場は1台1日5万円〜)や買取(1食600〜1,000円×食数)の案件です。企業の懇親会、住宅展示場、学園祭、自治会の行事。天候にも来場者数にも左右されない、いちばん確実な売上です。このタイプの案件は都市部より地方・郊外に多く、そして探している事業者が少ない。主催者側が「どこに頼めばいいか分からない」まま埋もれている案件が、実際にたくさんあります。

この3本柱の比率は店によって違っていいのですが、「イベント100%」だけは避けてください。飽和の圧力を全身で受ける構えだからです。

第4章:勝ち筋③「指名される店になる」——仲介依存から抜ける唯一の道

仲介サービスの話をします。

先に言っておくと、私は仲介サービスを否定しません。都市部で稼働するなら、大手マッチングの案件量は武器になりますし、月額を払っても回収できる人はいます(各サービスの料金と使い分けは別記事で正直に比較しているので、そちらを読んでください)。

ただ、構造として理解しておくべきことがあります。仲介の上に乗っている限り、あなたは「代替可能な1台」です。 主催者から見れば、条件の近い車が何十台も並んでいるカタログの1ページ。価格と空き状況で選ばれ、価格と空き状況で切られます。

ここから抜ける道は、ひとつしかありません。主催者から「来年もあの店に来てほしい」と指名されることです。

イベント側として出店者を選んできた経験から言うと、指名される店の条件は、料理の腕よりも先に、次の4つです。

  1. 数字に正直。売上報告をごまかさない、歩合の精算が透明
  2. 条件を守る。搬入時間、ゴミ、撤収。当たり前のことを当たり前にやる
  3. 当日の運営品質。行列を捌くスピード、清潔感、お客さんへの態度。主催者は自分のイベントの評判として見ています
  4. 主催者の集客に協力する。SNSで告知に乗る、それだけで主催者の印象は全然違います

この4つを1年続けると、翌年は仲介を通さない直接の声がかかり始めます。直接契約は手数料がゼロなだけでなく、条件交渉ができて、日程を先に押さえてもらえる。リピート指名の比率こそが、飽和市場でのいちばん硬い防御力です。

第5章:勝ち筋④「地方という空白」——競争の薄いところで戦う

ここまでの話をひとつの方向にまとめると、こうなります。競争の激しいところ(都市部・週末・人気イベント)で消耗するのをやめて、需要があるのに供給が薄いところへ動く。

その最大の空白が、地方です。

正直に言えば、地方は1件あたりの売上規模では都市部に敵いません。でも、経営として見ると景色が変わります。

  • 出店料が安い(無料〜数千円の案件がまだ普通にある)
  • 競合が少ない(同ジャンルの車とぶつかることが少ない)
  • ランチ難民地帯が多い(平日ベース収入を作りやすい)
  • 保証・買取案件が埋もれている(企業・展示場・学校・自治会)
  • 主催者との距離が近く、直接契約に育ちやすい

第2章の式を思い出してください。「出店料 ÷ 見込み売上」。分子が小さい地方は、売上が都市部の6割でも、手元に残る利益では逆転することが珍しくありません。しかも競争が薄いので、リピート指名までの道のりが短い。

もちろん、移動距離と商圏人口という制約はあります。地方で成立させるには、第3章のポートフォリオ(平日定期×イベント×保証買取)を県内〜近県の範囲で組み立てる設計力が要ります。でも、その設計をやる人がまだ少ないからこそ、空白なのです。

第6章:メニューと単価の設計——「1時間に何食出せるか」が売上の上限

場所の話ばかりしてきましたが、商品側にも飽和市場での鉄則があります。

キッチンカーの1日の売上は、実は単純な式で上限が決まっています。「提供スピード(1時間あたりの食数)× 営業時間 × 単価」。どれだけ行列ができても、1時間に30食しか出せなければ、それがあなたの天井です。

だから設計すべきは「美味しいメニュー」ではなく、「美味しくて、速くて、原価率30%に収まるメニュー」です。チェックポイントは3つ:

  • 仕込みでどこまで完成させられるか。当日の工程が短いほど提供は速い
  • メニュー数を絞れているか。品数が多いほどオペレーションは遅くなり、廃棄も増えます。看板1品+バリエーションが基本形
  • 値上げから逃げていないか。原材料が上がったのに価格を据え置くのは、自分の利益で客に補助金を出しているのと同じです。単価を上げる勇気と、上げても選ばれる看板商品。この2つはセットです

それから、飽和市場だからこそ効くのが「ジャンルの空白」です。イベント主催者は出店ジャンルの重複を嫌います。クレープ屋が5台応募してきたら4台は落ちる。つまり、地域のイベントでいつも埋まっているジャンルを避けて、いつも足りていないジャンル(食事系が足りない地域、逆にスイーツが足りない地域)を選ぶだけで、採択率は目に見えて変わります。応募の前に、そのイベントの過去の出店リストを見る。この一手間をやる人は驚くほど少ないです。

第7章:これから始める人へ——順番を間違えないでください

最後に、これからキッチンカーを始める人に向けて書きます。飽和と言われる時代に始めること自体は、間違いではありません。ただし、順番を間違えた人から失敗していきます

失敗する順番は「車を作る → メニューを決める → 場所を探す」。
生き残る順番は逆です。「場所を見つける → その場所で売れるメニューを決める → それに必要な最小限の車を用意する」。

車が先だと、ローンの支払いが始まってから場所を探すことになり、焦って条件の悪い場所を受け続ける負のループに入ります。場所が先なら、開業初月から売上の見込みが立っている状態でスタートできます。

初期投資も軽くしてください。新車のフル装備で始める必要はまったくありません。中古車両という選択肢を最初から検討に入れるべきです。固定費が軽いほど、第3章のポートフォリオを試行錯誤する体力が残ります。手前味噌ですが、私たちは中古キッチンカーの売買サポート(キッチンカーの縁結び)もやっているので、車両選びで迷ったら相談してください。

そして、開業前に一度だけ自問してください。「自分は、どの空白を埋めるのか」。都市部の人気イベントというレッドオーシャンに後発で挑むのか。それとも、平日のランチ難民地帯、地方の保証・買取案件、地域で足りていないジャンル——この記事で書いてきた空白のどれかを取りに行くのか。この問いに答えを持って始める人と、なんとなく始める人の差が、1年後にそのまま結果の差になります。

まとめ:飽和しているのは「戦い方」であって「市場」ではない

長くなったので、要点をまとめます。

  • 飽和したのは「同質なキッチンカー」と「都市部の人気枠」。需要そのものは増えていて、供給とのズレに空白がある
  • 勝ち筋①:数字を持つ。経費構造(原価30%・利益35%が基準線)と「出店料÷見込み売上」で場所を評価する
  • 勝ち筋②:平日定期×週末イベント×保証買取の3本柱で、イベント一本足打法から抜ける
  • 勝ち筋③:数字に正直・条件を守る・運営品質・集客協力。リピート指名こそ最強の防御力
  • 勝ち筋④:地方という空白。売上規模より利益率と競争の薄さで勝つ
  • 商品は「美味しい×速い×原価30%」で設計し、地域のジャンルの空白を突く
  • これから始めるなら「場所→メニュー→車」の順番。初期投資は軽く

キッチンカーという商売の本質は、「動ける」ことです。店舗と違って、市場が飽和した場所から、飽和していない場所へ移動できる。この業界最大の武器を使わずに、混んでいる場所で立ち尽くしているのは、もったいない。

飽和しているのは戦い方であって、市場ではありません。

最後に——挑戦の確率の話

ここまで「空白を突け」と書いてきました。ただ、正直に付け加えておきたいことがあります。

空白には2種類あります。誰もまだ気づいていない空白と、誰かが挑戦して、成立しなかったから空いている空白です。「ない」ということは、他の人がチャレンジした結果、市場がなかったという意味であることも多い。誰も知らないメニューを出すのは勇気が要ることですし、「ナニソレ?美味しいの?」と、ほとんどの人は飛びつきません。買ってくれません。

それでも、同じことをやっていては勝てない。キッチンカー業界は、もうそういう世界線に入っています。

人と違うコンセプトで戦うのは勇気が必要です。そして、ほとんどの場合それは失敗します。感覚で言えば、挑戦は10回やって1回うまくいけばいいほう。私自身は10回に1回どころか、100回挑戦してうまくいったのが1回、そんな割合です。うまくいっている人の裏には、99回の失敗があります。

だから大事なのは、失敗しないことではなく、失敗を次に活かせるかどうか。そして、失敗しても致命傷にならないように、数字を持ち(第2章)、固定費を軽くしておく(第7章)。この記事に書いてきたことは、突き詰めれば全部、挑戦できる回数を増やすための守りです。

怖がらずに挑戦してください。私は、勇気を持って挑戦する人を応援しています。

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滝澤 仁

この記事を書いた人

滝澤 仁
株式会社セレーノ代表 / キッチンカーの縁の下 運営者・業界19年

長野県在住。2005年にキッチンカーで起業し、フランチャイズ本部・中古車両売買・業界メディアを手がける。出店する側・集める側・支える側、すべての立場を現場で経験してきた。

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